知り合いの日本人に聞いた話では、日本に滞在した外国人が自国に持って帰りたいものはウォシュレットらしい。そのウォシュレットの温水シャワーを私は去年日本に帰国した時に人生で初めて利用した。ウォシュレットは子供の頃から自宅に設置してあり、便座は取り合えず温めて利用していたが、シャワーは使う事がないまま大人になった。そうこうするうちにドイツに移住してしまい去年まで利用する事がなかった。我ながら変わった日本人だ。
使った感想といえば、確かに気持ち良かった。病みつきになるほどでもなかったので外国人から絶賛の嵐と言われるのは大げさな気もするが、便利である事には間違いない。しかし、なぜこれ程までに外国人に評価の高いと言われるウォシュレットがドイツでは普及しないのか庶民の立場から考えてみた。
先ず第一に言える事はドイツにはウォシュレットは普及してはいないが、トイレの中の環境は基本的に悪くない。セントラルヒーティングと建物の高い断熱性によってトイレの中の気温も常に快適だからだ。冬にトイレの中でブルブルと震える日本であれば、暖かい便座は必須であろうし、温水でのシャワーはより一層気持ち良い。
しかし、ドイツでそこまでする必要は一般的に言っても少ないだろう。そして、そのような環境の中でウォシュレットが庶民に普及するには値段が高すぎる。アマゾンで値段を見たら安くても400ユーロはする。これに電気代がかかる上に多かれ少なかれの手入れだって必要になる。
また、ドイツ人の経済的に徹底して実利をを追求する気質を考慮したら、仮にトイレの環境が不快だったとしても別のコストのかからない解決方法を見つけるであろう。彼らは日本人と違いハイテクありきで生活の質を考えない。仮に便座が冷たければカバーをするだろうし、シャワーが無ければトイレットペーパーの質を良くするだろう。
これらの解決方法はウォシュレットの快適さには及ばないが、遥かにコストパフォーマンスに優れている。そして私の知る限りこういった点でのケチぶりはドイツ人はかなり徹底している。最近は景気が良い事もあり、そのような質実剛健的な気質も少なくなっているかもしれないが、仮にトイレの環境が悪かったとしても、多くの庶民にとっては今の所ウォシュレットという解決方法はどう考えても高すぎる。
ちなみに、ウォシュレットが普及しない理由に水質の違いが第一に挙げられていたが、確かにこちらの水は硬い。しかし、これは一般的に全ての水回りの電化製品に悪影響なのは常識であり、当然ウォシュレットについてもカルシウムから保護するフィルタが別に安価で販売されているので、解決済みの問題と思って良いのではないか。
上記に挙げたのはあくまで私個人の意見であり、異なった見解をする人もいるであろう。ただ、自分たちにとって当然の物がなぜ外国で普及しないのか考える事は重要だ。もっと言えば、国や文化、時代や世代の壁を超えて全ての人々にとって生活の質とは何か、豊かな人生とは何か、そもそも人間とは何かをまず考える必要がある。
もちろんこう言った問いに対するはっきりとした答えはない。しかし、世界的に普及している技術や製品はこの問いに対してある程度的確に答えた結果であろう。にも関わらず、そのような学問を仕事の役に立たないからとして軽視している昨今の風潮には疑問を感じずにはいられないと言っておきたい。