ドイツ鉄道の度重なる遅延や欠便、その劣悪なサービスはこれまで何度も書いてきたが、これには既に国民も諦めの境地に達している。近距離交通ならともかく、遠距離を鉄道で移動するなら選択肢はドイツ鉄道しかないからだ。そのシェアは99%に達しており、完全な独占状態である。
メディアや国民から非難の嵐が殺到しようが痛くも痒くもない。申し訳なさそうな態度だけで大した改善は見られない上に、チケットの値上げだけはぬかりなく実施する。アウトバーンの渋滞やエア・ベルリンの倒産、ベルリンーミュンヘンの新路線の開通などもあり、一時ドイツ鉄道には期待した時期もあったが、最近は再び期待するだけ無駄だという雰囲気になりつつある。
しかし、ついにそのドイツ鉄道の強力なライバルになりそうな企業が遠距離鉄道ビジネスに乗り込んできた。それはFlixMobility社というミュンヘンのスタートアップである。FlixMobility社はFlixBusと言う名で既に遠距離バス事業を手掛け成功を収めており、このFlixMobility社の新たな列車は”FlixTrain”と名付けられている。まずは3月23日からハンブルクーケルン間で運行をスタートし、4月の下旬からベルリンーシュトゥットガルト間(フランクフルト、ハノーファー経由)も開通する予定である。
折しも先週、ドイツ鉄道は寒波に全くと言って良いほど対応できず、メディアからは非難の嵐が殺到し、世間のドイツ鉄道に対する評価はどん底まで落ちこんだ訳だが、このFlixTrainの登場は世間がこのドイツ鉄道に絶望しているタイミングで公になった。そういう訳でこのドイツ鉄道の対抗馬の登場はメディアからの大きな注目を集め、世間の期待は否が応でも高まっている。
もっとも、このドイツ鉄道に対抗しようとして遠距離鉄道事業に参入する企業はこれが初めてではない。幾つかの小規模な事業者がこれまでも遠距離列車を運行したが、高額の鉄道路線の使用料や赤字路線を継続運行する体力がなく撤退に追い込まれた。FlixTrainもまずはこれらの過去の撤退した事業者と同様、取り合えず少ない便数を低価格で提供しスタートする。
しかし、このFlixTrainはこれまでの撤退事業者と異なり、将来的にドイツ鉄道の強力なライバルになると見られている。というのも、既にFlixBusがバス事業で結果を出している実績があるからだ。FlixBusは2013年から遠距離バス事業をスタートして以来急成長を遂げ、現在では既にそのシェアは90%に達している。ドイツ鉄道も過去に”Berlin Linien Bus”というバス事業を行っていたが、このFlixBusに撤退に追い込まれた。
また、FlixBusは自らバスを所持、運行するのではなく、手掛けているのはアプリやオンラインによるチケットの販売やマーケティングのみだ。面倒なことはその道のプロであるパートナー企業に任せて、自らは無駄な金や労力の掛からないデジタル事業に注力している。そして、そのチケットは低価格で、ブッキングシステムは至ってシンプルだ。肝心のバスもしっかりとトイレやスナックなどのサービスに加え、WLANによるインターネットの利用やコンセントなどを設置し、乗客がバスの中で退屈しないようになっている。FlixTrainも同様の戦略で事業を行う見通しだ。
また、親会社であるFlixMobility社にはダイムラーやアメリカの大企業が出資しており、資金面でもかなりの体力があるとみられる。既にバス事業で成功を収めているので、新たな鉄道事業にもおそらく余裕をもって投資できる資金的な素地がある上に、乗り換えなどでバスと鉄道を連携させるなどサービスの選択肢が増えるメリットも出てくる。
更にFlixMobility社は既にルフトハンザなどの航空会社と提携する話まで進めている。具体的にはバス、鉄道、飛行機を利用しながらも、出発地点から目的地まで1枚のチケットで快適な移動が出来るようなシステムができるかもしれない。
まだFlixTrainがドイツ鉄道を本当に脅かす存在になるかは未知数の部分があるとはいえ、これらの実績、情報を踏まえればかなり期待できると言って良い。そして、ドイツ鉄道も尻に火が付いたと思って真剣にサービスの改善に取り組むことを利用者としては望んでいる。