去る3月8日は国際女性デーだったそうで、寡聞にして私はその事を知らなかった。男女同権、男女平等というのは民主主義の世に住む我々には言葉上当然のことだと認識しているが、実際の世界では必ずしもそうではない。確かにこのテーマでは多くの解決すべき問題がある。故にドイツの場合は各役所やその他組織にしばしばこの男女同権を推進する役職が存在する。
そして、この国際女性デーに際し、ドイツ連邦家庭省でこの役職につくクリスティン・ローゼ・メーリングは男女同権を訴えるために国民が驚く提案をした。ドイツの国歌が男性的であるとし、それに当たる部分の歌詞を変更しようというのだ。
具体的には歌詞の中に登場する”Vaterland”=「父なる国」を”Heimatland”「故郷の国」に変更し、更に”brüderlich”=「兄弟のように」を”couragiert”=「勇敢に」という言葉へ置き換えるべきだというものだ。
そして結果から言えば、首相のメルケル、大統領のシュタインマイヤーがこれに反対の意を表明し、事実上即却下になった。他の多くの政治家、国民やメディアもこの案を猛烈に非難し、「私たちの国歌に手をつけるな」、「完全に馬鹿げている」、「もうエイプリルフールか?」などという辛辣なコメントが見られる。
普通に考えても国歌の歌詞というのは歴史的、文化的な意味および価値があり、国民のアイデンティティでもあるので簡単に変えられるものではないだろう。そもそも”Vaterland”=「父なる国」があれば、例えば”Muttersprache”=「母国語」のような”Mutter”=「母」と結合した合成語も山ほどある。そんなものにいちいち難癖付けていたら埒が明かない。そして”couragiert”に至ってはフランスからの外来語であり、国民が反発するのも容易に想像できる。
しかし、実際にオーストリアはこの男女同権を意識して自国の国歌の歌詞を既に変更している。カナダも今年将来的に歌詞の一部分の変更することを決定した。ドイツで出た変更案も当然これらの動きに触発されたものだ。
これらの男女同権の動きは欧米では遥かに日本よりも活発であるし、この傾向は今後もっと強くなるかもしれない。私もそれ自体に反対するものではない。実際にこちらで生活していると日本よりは遥かに男女同権、あるいはレディファーストを実践する場面に多く遭遇する。これは結構うっかり忘れがちになってしまうので、個人的に意識するようにはしている。