W杯においてドイツが許した稀な番狂わせ、1994年W杯準々決勝ブルガリア戦

ドイツの攻撃の中心は166㎝の小兵、トーマス・へスラーだ。もう一人の攻撃的MFメラーが中央で直線的な動きをするのに対し、へスラーはこの試合頻繁に両サイドに顔を出す。豊富な運動量と高い技術、精度の高いキックでドイツの攻撃をけん引し、ドイツのチャンスはほぼ全てがこのへスラー絡みだ。前半は0-0で終了したが、ドイツが試合をコントロールしている。

そして後半開始早々の48分、ドイツはややラッキーな形で先制する。PA内でロングボールを受けたクリンスマンがレチコフに倒されPKを獲得し、これをマテウスが落ち着いて決めた。これはブルガリアにとってやや厳しい判定だったが、ここでドイツがリードをする事は順当とも言える試合内容だ。

リードしたドイツはその後立て続けにチャンスを演出し、試合を決めにかかる。53分にはこの日出色の出来であるへスラーがゴール正面からミドルシュートを放ち、これはミハイロフの好セーブに阻まれた。60分にはクリンスマンとフェラーのワンツーからDFのヘルマーが決定的なシュートを放つがこれも惜しくも外れる。

最大のチャンスは72分、左サイド深い位置でボールを受けたヘスラーがドリブルでPA内に侵入し、中央バイタルエリアに走りこんできたメラーにグラウンダーでマイナスのパスを出した。メラーはこれをダイレクトで火の出るような強烈なミドルシュートを放ち、このポストの跳ね返りをフェラーが押し込んでドイツが2点目を奪ったかに見えた。しかし、これはフェラーがオフサイドの判定で取り消された。

これはかなり微妙な判定であり、もしもゴールになっていれば試合は決まっていただろう。しかし逆に、ここからはドイツにとって悪夢のような試合展開になる。

76分にブルガリアはゴールからおよそ20mやや右よりの位置でフリーキックを獲得する。これを蹴るのはこの年バロンドールを得たフリスト・ストイチコフである。そして、ストイチコフは左足でこのフリーキックをゴール右下に沈めた。これはドイツのGKイルクナーが一歩も動けない程見事なフリーキックだったが、蹴る瞬間イルクナーは完全に逆のコースに体重をかけておりこのキックに反応できなかった。GKの致命的なミスと言えるだろう。

更にその2分後、右サイドでボールを受けたヤンコフはドイツの甘い守備をかわしてPA中央にクロスを上げ、これをレチコフがダイビングヘッドでドイツゴールに突き刺した。ドイツはクロスを上げる段階でそれぞれの選手がマンマークに付いていたが、その守備は疲れの為か極めて緩く簡単にクロスを上げさせてしまった。そしてこの186cmの長身レチコフにヘディングで競り合ったのは166㎝のヘスラーである。この空中戦に勝ち目はなかった。