ベルリンには現在2つの空港がある。一つは北部に位置するテーゲル、もう一つはシェーネフェルドと呼ばれ南部に位置する。このうちのシェーネフェルドを拡張して、ベルリンに1つの巨大な新空港を完成させるプロジェクトが長年にわたり計画され、2006年に工事がスタートした。この新空港はベルリン・ブランデンブルク国際空港と名付けられ、愛称としてかつての西ドイツ首相ヴィリー・ブラントの名を冠することが決定している。
しかし、本来2012年になる予定だった新空港の開港は幾度も延期され、工事開始から12年が経った現在でも未だに完了していない。そうこうするうちに当初20億ユーロだった建設費用も現在では約70億に膨れ上がる見通しとなり、建設上の問題の数々が浮き彫りになった。
ドイツの首都にヨーロッパで最も近代的な空港の建設すべく意気揚々とスタートしたこの巨大プロジェクトだったが、現在ではドイツ最大の失敗プロジェクトとして認知され、完全な世界の笑い種と化してしまっている。
このベルリン新空港の建設における具体的な失敗の数々は今となっては列挙に暇がないが、その中でも最も公になっているのが自動ドアの問題だ。このベルリン新空港にはおよそ1400個の自動ドアが設置されているといわれており、これらが正しく作動しなかったことがまず2012年の開港を断念した最大の要因となった。しかし、この問題の解決には相当手こずり、その後もこの問題が原因で開港を断念した。
何故自動ドア如きでそんなに何年も手こずったかと言えば、この自動ドアには極めて複雑なプログラムがインプットされていたらしく、具体的には数々の不意の事故や緊急事態が起こった場合でも、ドアがすべて自動で適切に反応するべく設計されており、そのパターンは140にも上ると言われている。
しかし、この複雑な仕様の自動ドアを機能させる上で、そもそも設計の時点で間違っていたことが判明し、多くの電力供給の配線をやり直さなければならなくなった。つまり建物の中の壁を再び取り壊し、ドアも新たな工事で破損するなどして取り換えなどの必要が生じる羽目となった。要するにほとんど最初からやり直しという事だろう。
更に異様に複雑な仕様のために、何度も動作確認を個別にする必要があったらしい。この問題は今年に入ってようやくほぼ解決したとのニュースを読んだ。
そして、この自動ドアの問題に手こずっている間にもう一つ判明した大きな問題がスプリンクラー装置である。スプリンクラー装置とは火災が発生した時に自動的に散水する設備であり、火災が大きくなるのを防ぐのが目的で設置される。
このスプリンクラー装置は2016年の10月に29000個ほど設置されたのだが、後になってこれ程の大量の装置に対して配水管の強度が十分でないことが判明した。そういう訳で再び天井を開けて、およそ2Kmにわたる配水管を新しく取り替えなければならない。この問題は未だに解決されておらず、現在空港が完成しないおそらく最大の理由だと推察される。
他にも、地下の駅からターミナルまでのエスカレーターの長さが間違っていた。植えられた1000本の木の場所が間違っており、そのうちの600本を切り倒して別の場所に植え替えた。度重なる建物の設計変更のせいで4000室ある部屋のうちの3分の1が間違った番号になっているなど、失敗を探せば山ほどある。
最近では空港内の750個のモニターが取り替えられることになって物議を醸した。2012年の開港用に設置されたのだが、6年間何の役にも立たないまま寿命が来てしまったからだ。
そして、これらのモニターは業務用になっており、一般ユーザーは使用できない仕様になっている為、取り外されたモニターのうち100個はベルリンのもう一つの空港のテーゲルで使用され、それ以外は廃棄された模様だ。そのコストはおよそ50万ユーロである。本当に馬鹿げた話だが、そもそも新しいモニターを今取り付ける必要があるのだろうか。
また、利用客がいないにも関わらず毎週月曜日から金曜日の深夜には空港駅にSバーンが運行されている。空港がまだ完成していない一方で、既に新しい線路は敷き詰められ、プラットホーム、エレベーター、エスカレーター、電光掲示板すべてが完成しているのだが、そうなると地下に建設されたこの駅の設備にカビが生えたり錆がついてしまうので、換気のためにわざわざ無乗客のSバーンを毎日運行させる必要があるとの事だ。これしかメンテナンスの方法はないにしても、本当に馬鹿げた話だ。
そのように失敗だらけのベルリン新空港の建設であるが、最近の情報によると2020年の10月に完成予定とのことだ。しかし、当然ながらこの情報を信じる者は少ない。
ついこの間はルフトハンザの幹部の一人が、空港は一旦取り壊されて新しく建て直されるだろうと発言して物議を醸した。仮にそんなことになれば本当に前代未聞の事態になるが、これまでの経緯を考えればそれも実際にあり得ると思わざるを得ない。
当然国民もこのテーマには完全に怒りを通り越して呆れかえっており、真剣に議論するよりは寧ろブラックジョークのネタとして扱いつつある。何れにせよ、現段階ではドイツの歴史的な失敗プロジェクトの呼び声も高く、国としての評価を下げてしまっているのは間違いないだろう。