ドイツ経済の最大のリスクは、専門教育を受けた労働力不足

最新の情報によるとドイツ政府はの2018年の経済成長率は2,3%と見込んでおり、これは当初の予想であった2,4%から僅かに下方修正したが、相変わらず非常に景気が良い状態が続いていると言える。因みに記録的に景気が良いと言われた昨年は2,2%だったので、今年はこれまでのところそれ以上の数値が期待されている事になる。失業率の低さや国家財政黒字も相変わらず記録的なレベルを維持しており、ドイツの経済状況は依然として極めて良い。

しかし、この好景気の中でも目下のところ問題視されている事項がある。一つはトランプが発動すると見られているEUに対する鉄鋼の輸入制限である。貿易黒字はここ数年で減少傾向にあるとは言え、依然として輸出大国であるドイツにとってトランプの保護主義は目の上のタンコブなことは容易に想像がつく。これについてはメルケルが先日トランプを訪問し解決策を模索している。

そしてもう一つ、それ以上に問題視されている事項がある。それがドイツ国内における専門的な労働力の不足だ。ここで日本語で「専門的」と言えば理系を中心とした極めて高レベルな分野と思われがちだが、ドイツでは基本的に就労する前提として、すべての職業に対して一般的に専門教育が行われている。

日本のように会社に入ってから育てていく部分もなくは無いが、その要素は遥かに少ない。本来就労するためにはその職業に対して多かれ少なかれ専門的な教育を既に受けている必要がある。つまり、常識的なレベルの専門性を持った人材が劇的に不足しているという問題である。

この問題はもともと昔から存在したが、景気が良くなり経済が拡大するに従ってその深刻さは急速に増してきた。そして現在では何れの業界も人手が足りなくなり全く専門性のない人材を雇わざるを得なくなっている。或いは、採用する側もそのような低レベルな人材は必要ないと思うかもしれない。

人を雇うだけでも金がかかる上に、失敗に目を瞑りながら何年もかけて教育していく時間など誰もない。多くの企業は抱えきれない程の案件を受注しており、全てを期限内に処理することが不可能な状況になっている。

そして、現在この専門的労働力の不足で、ドイツの年間経済成長率は0,9%、金額にして300億ユーロを損をしていると言う調査が発表されている。これが無ければ、単純に計算するとドイツの経済成長率は年間3%以上にさえなる。

また、この間フォルクスワーゲングループの一つであるスコダは労使協定に基づいて働いている社員の給料の12%のアップを強いられたが、これも昨今の専門的労働力の不足を反映したものと言われている。東ヨーロッパの景気が拡大しているのに伴い、マーケットで既にこれらの労働者の争奪戦になっており、このような破格の給与アップを認めざる得ない状況になっているという事だ。

そして、これらの専門労働力に十分な待遇を用意できない小さな会社はどんどん淘汰されていくだろう。最近やたらと企業の吸収合併が多いのはそのせいかと思わせる。もちろん、マーケットのすべての空きのポジションを専門的な労働力で埋めることは不可能かもしれないが、ドイツ政府もこれを早急に対応すべき問題と認識しており、連立政権を構築するうえでの一つの大きなテーマとなった。

そして、この問題はやはり多くの専門教育を受けた外国人を積極的に受け入れる事で解決すべきと各方面の意見は概ね一致している。現在ではまだ、EU圏外からの専門教育を受けた移民が滞在および労働ビザを得るのはかなり厳しいが、新たな移民法を作成することによってEU圏外からも専門教育を受けた労働力を確保するべきだという声が大きい。

因みに、ここで見本になると言われているのが、カナダの移民法に倣ったポイント制度である。それは年齢、学歴、資格、言語能力や適応能力に従ってポイントをつけ、各項目で一定以上のポイントを得た移民に対して一定期間の滞在許可、労働許可を与えるというものだ。

もちろん、一方で唯でさえ外国人が増えている事に不満があるドイツ人は多く存在し、実際に多くの適応できない外国人が存在するのも事実なので、新しい移民法については今後相当議論されるだろう。しかし、専門的な教育を受けた外国人であれば今後引く手数多になる可能性は高い。多くの先進国も少子高齢化などで、労働力がこの先大幅に不足することは目に見えているので、これらの外国人は国際的にも争奪戦になると言われている。

そういう訳で、近い将来EU圏外からの外国人がドイツで職を得るチャンスは大きく上がる可能性がある。もしも若い人々で将来ドイツで就職したいと考えている人がいるのであれば、このトレンドは注目しておいて損はないだろう。ドイツで新たな移民法が出来るかどうか、そして外国人労働者にビザを与える上で何を重視するのか、その内容を個人的にも注目している。