火曜日にチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグ、FCバイエルン対レアル・マドリーを観戦した。ホームの1stレグで2-1で敗れたバイエルンが決勝に進出するには、このアウェーで行われる2ndレグで少なくとも2点以上とって勝利する必要がある。レアル相手に非常に厳しい条件であるが、諦めるのはまだ早い。昨年も全く同じ状況からアウェーの2ndレグで2-1で勝利し、延長戦まで持ち込んだ。
この日のバイエルンは不動の守備的MFであるマルチネスに代えてトリッソを起用し、中盤の守備力を削ってでもあくまで攻撃力を優先するスタメンで臨んだ。堅実かつバランスの取れた策を採るハインケスにしては珍しい采配だ。
そしてその通り、バイエルンは試合開始早々からギア全開でレアルゴールに迫り、開始3分でいきなり先制点を奪う事に成功する。レヴァンドフスキのポストプレーから右サイドのミュラーがクロスを送り、そのクリアボールがこぼれたところをキミッヒが決めた。
リベリーの高速パスを完璧なトラップから展開したレヴァンドフスキ、更にそこから完璧な位置にクロスを送ったミュラー、ボールがこぼれることを想定してぬかりなく詰めていたキミッヒ。シンプルだがすべてのプレーを高速の流れの中、完璧な精度で処理したバイエルンの攻撃はまさにワールドクラスだろう。これにはさすがに鉄壁のディフェンスを誇るラモスも後手に回った。
しかし、殴られたら殴り返すのがレアルである。11分マルセロの左サイドからの高いクロスをベンゼマが頭で決めて早くも同点に追いつく。キミッヒのマルセロに対する寄せは甘かったが、相手がマルセロの場合下手に飛び込むとかわされて大ピンチになる。これはマークすべきベンゼマを視界から失ったアラバのミスだろう。
そしてそのあとは両チームが攻め合う一進一退の攻防が続いた。両チームの圧倒的なスピード、テクニック、組織力は世界サッカーの最高峰、一瞬たりとも目が離せない見応えがある展開だ。しかし、素早いパス回しからサイドを徹底して攻めるバイエルンがやや優位に立っている印象である。前半は1ー1で終了したが、後半に向けて期待を抱かせる内容だった。
しかし、後半開始直後この試合最大の事件が起きてしまう。キックオフ直後から前線でプレスをかけてきたレアルに対し、トリッソはGKのウルライヒにバックパスを出した。この何でもないバックパスをウルライヒが後ろに逸らすというおよそ考えられないミスを犯し、転々と転がるボールをベンゼマが押し込みレアルがまさかの勝ち越し点を奪う。信じられないような光景に開いた口が塞がらない。
この後、気をとりなおして攻めたバイエルンはハメスのゴールで2-2の同点に追いつく。そしてその後も傘に掛かって攻め込み、何度も惜しいチャンスを得た。しかし、レアルGKナバスの攻守もありゴールが遠い。結局バイエルンはこの試合合計21本のシュートを放ちながら勝ち越し点を奪う事が出来ず、またもやレアル相手に涙を飲む事になった。
今回の2試合を通じてみれば、監督のハインケスや選手たちが試合後のインタビューで述べていた通り、バイエルンの方がチームとしては優れていたが、残念ながら2つのゴールを個人レベルのミスでレアルにプレゼントしてしまった事が致命傷になってしまった。
これは日本人的には言い訳臭く聞こえるが、的を得た当然の発言だろう。この内容でレアルを褒めちぎったり、味方のミスを無かった事にするようなおべんちゃらは全く求められていない。そして、残念ながらこのような壊滅的な個人レベルのミスをチームとして制御する事は事実上不可能だ。それだけに、バイエルンの選手たちには大きな無力感が残ったであろう。
とりわけ、この試合における決定的な誤算は言うまでもなく、GKスヴェン・ウルライヒの絶望的なミスである事に疑いの余地はない。この日解説していた元世界のベストGKであるオリバー・カーン曰く、ウルライヒは最初このボールを手で取りに行き、途中で手を使ってはならない事に気付いてボールを蹴り出そうとした所、バランスを崩してミスに至ったとの事だ。
確かにトリッソのバックパスはやや中途半端ではあったし、ウルライヒにはベンゼマがプレスにかかっていた。おそらくバイエルン相手にあの位置であのレベルのプレスをかけるチームはドイツ国内には存在しないだろう。しかし、ウルライヒは最初から足で蹴り出すつもりであれば、通常なら問題なく処理できる程の十分な時間と間があった。本人は昨日の新聞のインタビューでは判断ミスと述べていたが、これは頭のスイッチが一瞬オフになってしまったと言うレベルの事故に見える。
もちろん、このミスが無かったとしてもバイエルンが勝っていたとは限らないとはいえ、余りにも痛いブラックアウトだった。そして、このレベルの重大なミスは、可能な限り忘却の彼方に消し去ることが必要だろう。しかし、ウルライヒはノイアーが帰ってくれば再び控えGKで出番は無くなるので、このトラウマを払拭するのは極めて難しい作業になる。シーズンを通しては良い仕事をしていただけに、正GKとして他チームに移籍し、新しい成功体験にチャレンジするのも一つの選択肢に思える。
一方のチームとしては、このウルライヒのミスによる失点で精神的なダメージも大きい中、レアルを崖っぷちまで追い詰めたその戦いぶりは称賛して良いだろう。確かに決定力不足もあり、これは改善の余地があるが、それでもこの試合レアル相手に2得点は決してネガティブに捉えるような事ではない。私は正直今年のFCバイエルンには殆ど期待していなかったが、依然としてヨーロッパのトップを争うクラブである事を示してくれた点は、ファンとしてかなりポジティブな点だったと言える。