先日、アメリカ大統領であるドナルド・トランプが一方的にイランとの核合意を離脱、再び経済制裁を科すと発表しドイツで物議を醸している。この核合意、つまりイランの核開発を抑制する替わりに、経済制裁を解除するという取り決めにはドイツも参加しており、このアメリカの一方的な離脱宣言による悪影響が懸念されている。ドイツはこのトランプの決定を “schwerwiegend”=「深刻」とし、イギリス、フランスと同様イランとの核合意を維持する意思を明確にした。
とりわけ、ドイツにとって悪影響が懸念されているのは経済面である。というのも2015年にこの核合意が締結されて以降、経済制裁の足かせが取れたイランとドイツの取引額は42%も上昇した。イランの人口は80億人、良く教育された若い労働力も多く、今後大きく成長するマーケットであり、この為現在では多くのドイツの大企業がイランとの取引に力を入れている。そのポテンシャルは極めて大きいと見られていた。
しかし、このアメリカの核合意の離脱表明に伴い、在独アメリカ大使はイランと取引を行っているドイツ企業に対し、「直ちに」イランとの取引を停止することを要求した。はっきり言えばそんな一方的かつ身勝手な命令は本来許しがたい暴挙だと思えるのだが、アメリカが経済制裁を科すという事は、基軸通貨であるUSドルがイランとの取引で使え無くなることを意味している。ドル無しで国際間の取引をすることは事実上不可能なので、理不尽でもドイツはこのアメリカの指図に従う以外にない。
因みに、エアバスなどはつい最近イラン航空におよそ100機の飛行機を販売し、これは総額およそ160億ユーロに上る巨大な売買契約となったそうだが、こんな進行中の巨大取引が突如暗礁に乗り上げる事態になる。注文のあった機体のうち既に3機は配送したらしいが、残りの約97機はどうするのであろうか。こんなビジネスに関わってる人間からすれば悪夢のような事態だろう。トランプがこの核合意を離脱することは想定内だったが、これ程急進的な措置にはドイツの取引関係者も狼狽した様子が見て取れる。
この事態を受けてドイツの経済相であるアルトマイヤーは、イランと取引のあるドイツ企業を法的にアメリカの独断決定から保護することは不可能であるとの見方を示した。つまりドイツ企業とイランの取引は今後事実上不可能であるという事だ。
それを無視してイランでビジネスを続けた場合、アメリカより厳しい罰則が課される事になる。そして、その罰則に従わない場合、その企業はアメリカのマーケットから締め出されるリスクがあり、そんなリスクは誰もとらないだろう。この状況を転覆させることは不可能で、アルトマイヤーは今後被害を最小限に抑えるためのダメージ・コントロールに注力することを明らかにしている。