昨日、ロシアW杯に臨むドイツ代表の最終メンバーが発表された。レロイ・サネの落選といった若干のサプライズもあったが、概ね世間の予想した通りのメンバーが選ばれたと言える。確かに知名度から言えば、ドイツは例によってブラジルやフランス、スペインよりは劣るだろう。しかし、今回のメンバーはここ数年では最も若手とベテランが程よくミックスされ、各ポジションのバランスの取れたメンバー構成と個人的には思っている。
そして今回W杯に臨むドイツ代表の中でも私が最も注目し、その活躍を楽しみにしている選手がいる。それは29歳にして初のW杯に臨む天才アタッカー、マルコ・ロイスだ。
現在ドルトムントに所属するロイスは2011年にドイツ代表に初招集されて以降、ドイツ屈指の攻撃的MFの地位を揺ぎ無いものにしてきた。そのプレースタイルはスピード、テクニック、アイデア、得点力など、全てを高いレベルで兼ね備えた王道的なものだ。攻撃面での総合力で言えばドイツナンバーワンと言っても差し支えない程の実力を備えている。
2011年、当時ボルシアMGに所属していたロイスはブンデスリーガで18得点、11アシストを記録し23歳の若さでドイツ最優秀選手に選ばれ、誰が見ても直ぐにでも代表の攻撃的MFでスタメンで起用できるほどの実力があった。
EURO2012でドイツは準決勝でイタリアに敗れたが、この完全に骨抜きにされた試合の中で唯一相手に脅威となったのがロイスだ。この試合にロイスではなく、ポドルスキをスタメンに起用したのは監督であるレーヴの大きな采配ミスだ。これ以後ロイスは代表の2列目左で議論の余地のないスタメンとなった。
しかし、ロイスはその天才的なプレーの反面、異常に怪我が多い選手と認知されており、日本では「ガラスの天才」と呼ばれているのを見かける。故に圧倒的な実力を備えながら2014年W杯、EURO2016ともロイスは負傷の為、出場を断念せざるを得なかった。
今回のロシアW杯においてもロイスは長らくドイツ代表から遠ざかっており、メンバーに入るのは難しいと見られていた。しかし、大会直前になって再びクラブで戦列に復帰したロイスは再び高いレベルのパフォーマンスを続け、慎重な姿勢を示していたレーヴも遂にその招集に踏み切った。そして先日のオーストリア戦で、ロイスは2016年3月以来の代表での復帰戦を交代出場で飾った。
おそらく、W杯本戦でもレーヴは2列目の左でロイスをスタメンで起用するだろう。このポジションはロイスが居ぬ間にドラクスラー、ゲッツェ、サネといった才能豊かな若手が何度もテストされたが、私の目から見れば一度たりともロイスの穴を埋める程のパフォーマンスを見せたことはない。
そして、もう一つロイスに関して私が個人的に注目しているのが、そのプレースタイルに若干の変化が見られる事だ。ヨアヒム・レーヴが「ロケット」と形容したように、ロイスは元々は圧倒的なスピードとテクニックを駆使したダイナミックなプレーをするウィングの選手であった。それが怪我の多い理由の一つでもあっただろう。
しかし、私の印象ではロイスは昨年あたりから前線のクレバーなポジショニングでよりストライカー近い動きをするようになった。昨年はクラブでトーマス・トゥヘルの下しばしばFWでも起用され、アシストよりも得点能力に長けた選手に変化しつつある。これは、似たようなポジションの選手であるクリスティアーノ・ロナウドのプレースタイルの変遷に近いものがあるかもしれない。ロイスも年齢を経てプレーの幅を広げつつある。おそらくレーヴも今大会状況によってはロイスをFWで起用するプランを持っている筈だ。
ドイツ代表は優良な選手が飽和状態のMFに比べるとFWはやや駒不足で、不調や怪我などで最前線に問題を抱える可能性は十分にある。そのような状況を解決できるのはロイスだろう。個人的には今大会ロイスは得意の2列目の左だけでなく、1,5列目、或いは2トップの一角としても見てみたい。度重なる不運と怪我を乗り越え、満を持してロシアW杯に臨むマルコ・ロイスはドイツの攻撃に更なるバリエーションをもたらす特別な選手である事は間違いない。是非注目して欲しい選手である。