ドイツ鉄道、すべてのICEでデジタル改札を導入する

遅延、欠便が日常茶飯事とも言えるドイツ鉄道のICEであるが、スマホでの比較的簡単なブッキングや、昨年あたりから車内に無線LANを導入するなど、チケット調達および車内の快適度に関してはそれなりに努力している跡が窺える。今日読んだニュースによると、ドイツ鉄道は6月末までにすべてのICEでアプリを利用したデジタル改札を全てのICEで導入すると発表した。

まず、従来の改札システムをおさらいしておく。ICEに乗る場合、乗客は駅の窓口或いは自動販売機、インターネット、アプリを通じてチケットを購入し、列車に乗る。乗ってしばらくすると改札員が車内を回りはじめ、乗客はそこでチケットを提示し、改札してもらうという手筈だった。つまり、その気になればチケットを買わなくても列車には乗れる。

私は試したことがないが、改札が来るときに食堂車にでもいればバレずに済むかもしれない。構内に自動改札機が普及している日本からすれば、何と原始的だと思われるかもしれない。

因みに、この他にもドイツでは多くのシステムが依然として顧客の正直さを信頼して成り立っている部分がある。道端での新聞の無人販売箱や、駐車場の料金の支払いなどは、仮に料金を払わずに黙っていても検査が来なければ咎められない。これらは勿論、単体でみれば少額の商売なので、そのために大層なハイテク機械を導入するよりは、罰金を抑止力にした方が経済的にも効率が良いというのもあるだろう。

話が横道にそれたが、今回導入されるドイツ鉄道のデジタル改札はKomfort-Check-Inと呼ばれ、スマホアプリを利用して乗客自ら改札を済ますというシステムである。このサービスを利用するには、まずドイツ鉄道のウェブサイト、或いはDB Navigatorと言うスマホアプリでデジタルチケットを買い、指定席でICEに乗ることが前提となる。また、子供が同伴している場合、このサービスは利用できない。

チケットを購入したら、次にそのチケットをアプリに読み込ませる必要がある。これはウェブサイトで購入した場合、アプリ内でチケットの番号と自らの名前を入力し、画面の所定のボタンを押せば完了する。既にアプリを利用して購入した場合、あらかじめチケットはアプリに読み込まれており、この作業は必要ない。

この状態でICEの乗り、スマホでデジタルチケットを表示させ、自らブッキングした席を確認するボタンをスマホ上で押せば改札は完了する。これにより、列車乗務員は指定の席の改札が完了されたというシグナルを受け取る為、その席に関しては改札に来ないという具合だ。乗客側はこれで車内で乗務員による改札のストレスから解放される。

これまで、車内で寛ろいでいる時に”Fahrschein bitte”の声とともにやってくる改札は確かに非常に煩わしかった。また、乗務員にチケットを検分されるのもそんなに気分の良いものではない。しかし、デジタル改札の導入で乗客側は一度席に着いたら目的地につくまでリラックスして車内で過ごすことが出来る。また、ドイツ鉄道側としても、乗客が自ら改札をしてくれる事で当然乗務員の仕事を減らすことが可能になり、そこで出来た余剰労働力を別のサービスに投資することが可能になる。

このようにサービスを提供する側と受ける側、双方に明らかなメリットがあるシステムは更に広がって欲しいと思う。両者の関係は対等であり、パートナーでもある。

メルケルは今年の初め、”Die Welt wartet nicht auf uns”=「世界は私たちを待ってはくれない」と述べ、ドイツが社会経済のデジタル化を国策として進めていく方針を明確にした。このデジタル化の波が押し寄せることで、相当数の雇用が失われていくことも懸念されているが、少なくともドイツ鉄道に関してはその必要はないだろう。現時点では定時運行率の改善をはじめとして、改善するべき点は多くあるからだ。因みにドイツ鉄道は2030年までに鉄道路線網の8割をデジタル化してコントロールすること目標としており、これが改革の本丸になるだろう。