レロイ・サネ、ロシアW杯ドイツ代表メンバーから落選する

この間の記事で、実力がありながらヨアヒム・レーヴによって代表を干された選手たちを数名紹介したが、今回のロシアW杯に限って言えばそのリストにもう一人名前が加わる事になる。現在プレミアリーグ、マンチェスター・シティに所属するレロイ・サネだ。

現在22歳のサイドアタッカーであるレロイ・サネはサッカー元セネガル代表でもあるスレイマン・サネと、ドイツの新体操選手でロス五輪の銅メダリストであるレギーナ、ヴェーバーの息子という、まさにドイツスポーツ界のサラブレッドである。日本ではドイツ語風にザネと記載される事が多いようだが、ドイツではフランス語風に「ネ」にアクセントがある感じで「サネェ」と発音される。私にはこちらが馴染みがあるので「サネ」と表記させてもらう。

2014年にシャルケ04でブンデスリーガにデビューしたサネは、翌年若干19歳でドイツ代表にもデビューし、2年前のEURO2016にもメンバーに選出された。このEURO2016の終了後、5000万ユーロの移籍金でイングランド、プレミアリーグのマンチェスター・シティに移籍する事になる。この額はドイツの選手として最高額であり、サネは並み居るドイツ代表の主力選手を凌ぐ、言ってみればドイツで最も市場価値の高いスター選手でもある。

そしてサネは移籍2年目の昨年ブレイクする。プレミアリーグを圧倒的な強さで制したクラブで2列目左の定位置を獲得、10得点15アシストという申し分のない成績を残し、リーグの最優秀若手選手に選ばれた。その活躍は当然ドイツ、そして世界にも知れ渡っている。

そのサネの持ち味はその圧倒的なスピードとドリブルだ。ドイツ代表の試合を見て一人だけチーターみたいなスピードで走っている選手を見つけたなら、それはサネだ。そのレベルはワールドクラスの選手が揃う中でも段違いと言って良い。サネは殆ど左足でボールを操るが、その柔らかいタッチから繰り出されるドリブルは変幻自在で、急角度の方向転換も可能とする。止まった状態からも、その一瞬のスピードで相手を置き去りにする。

更に、サネのその常人離れしたスピードとドリブルはドイツ代表の中でも非常に希少価値が高いと見られていた。というのも、確かにドイツには優秀な攻撃的MFが揃ってはいるが、鋭いドリブル武器とするタイプの選手が少ない。敢えて言えばドラクスラーやブラントはそれにあたるかもしれない。しかし、さすがに両者にも強豪国相手に違いを生み出せる程の個の力はない。しかし、サネにはそれがある。その才能は一目見れば分かるほどの明らかな違いがある。

おそらく、怪我がちのロイスや、今ひとつ煮え切らないドラクスラーに代わってドイツ代表の2列目の左の定位置を獲得するのはサネだと期待していた国民は多かった筈だ。それどころか今回メンバーに選ばれていれば、W杯で最も注目すべき若手選手として至るところのメディアから取り上られた事は間違いない。

しかし、サネはクラブでの活躍を代表チームに落とし込むことが出来なかった。或いは、そのプレースタイルがドイツ代表にマッチしないとも言えるかもしれない。今年の3月に行われたブラジルとのテストマッチ、サネは満を持して2列目の左としてスタメン出場するが、散々な出来に終わった。更にこの日のボールロストを繰り返したプレーは、チームの中心であるクロースに試合後公に苦言を呈される事になる。このクロースの発言は名指しこそ無かったが、暗にサネを指しているのは明白だった。

更に先日のテストマッチのオーストリア戦、レーヴはブラジル戦に引き続きサネを2列目の左で先発させた。これはサネに対する期待の裏返しである一方で、この試合は今となって思えば、サネを落とすかブラントを落とすかの最終試験だったのだろう。ノイアーばかりが注目されたが、ここでも重要なキャスティングが進行していたことを窺わせる。

そしてこの試合、サネは若干の改善があったものの、全体的にはやはり周囲との連携が噛み合っていない印象を受けた。一方逆サイドで先発したブラントはドリブルを基盤にしながらも、コンビプレーを駆使して決定的なチャンスに絡んだ場面もあった。そして、レーヴはおそらく最終的はこの試合での内容を吟味してブラントを選んだと思われる。この決断に対し、フンメルス、クロースといった主力選手も全く驚きは無い旨のコメントを残している。

しかし、私は最終的にはそれでもサネをロシアに連れて行くと予想していたし、多くの人も同様だったはずだ。世間では依然として、ビッグクラブで圧倒的な実績を残し、かつアスリートとして類まれな才能を持つサネの選外が正しいのかの議論が続いている。とりわけ、このレーヴの決断に噛みついたのがかつてのキャプテンであるミヒャエル・バラックだ。

バラックに言わせれば「ブラントは才能のある若手だが、サネと同じレベルでプレーしていない。サネはビッグクラブでより優秀な選手と共にプレーしている」とし、更に「サッカーの面で言えば、サネを選外にする納得いく理由は見当たらない」と暗にピッチ外の振る舞いでサネは外されたと主張している。

現役時代から変わらず歯に衣を着せない発言をするバラックであるが、私から言わせればこの発言には一理ある。このサネの選外に対しサッカー面以外の理由があるのかは誰も知る由はない。しかし、W杯優勝する為に必要なのは、オーストリアのような中堅国ではなく、ブラジルやスペイン、フランスのような強豪国に一発勝負で勝利しなければならない。その為にはやはり突出した個の存在は非常に重要になる。互角の試合の中、膠着状態を突き破れる常人の予想を超えたプレーが出来るとすれば、それは間違いなくブラントではなくサネであろう。

そして詰まるところ、ドイツ代表が伝統的にW杯やEUROでベスト4には確実に進出する一方で、そこから先の勝率が今一つ良くないのは、やはりそのような強力な個が不足しているからとも言える。これはチャンピオンズリーグで毎回レアル・マドリーに敗れるFCバイエルンにも言えることかもしれない。それだけに、今回サネがチームにフィットしなかったのは非常に惜しまれる。レーヴにとっても苦渋の決断だったに違いない。

とはいえ、ドイツは前回のようにあくまで他を寄せ付けない高い組織力で優勝する力を備えているのも紛れもない事実だ。今回サネが外れた2列目の左にはロイスが復帰した。サネの絶大なポテンシャルは惜しいが、私の評価ではあくまでドイツ代表としてロイスの総合力は遥かにサネの上を行く。ドイツのコンセプトはあくまでも組織力、総合力で勝負するというものだ。サネもこの落選を機に、もう一回り成長して代表に戻ってくるだろう。