昨日ロシアW杯が開幕した。ここから大会期間中約1ヶ月間、ドイツはサッカー一色になる。国内の政治経済にまで多大な影響を及ぼす、ドイツ人にとって最大のスポーツイベントだ。前回大会で優勝したドイツ代表は、今大会は連覇の期待がかかる。そして、その期待はかつて無いほど大きいものだと言える。
ZDFの調査によると、ドイツ代表の優勝を予想しているドイツ人は実に全体の34%にものぼる。優勝した前回大会の際にはこの数値は22%だった。この数値には勿論、若干の願望も入っているのは間違いない。しかし、多少の贔屓目がある事を差し引いても、今大会のドイツ代表は私が過去に見た中でも最高のチームだ。今回ほど優勝を期待して観戦するW杯は過去に無い。
というのも、今回のロシアW杯、ドイツはこれまでで最も隙の無い完成度の高いチームを送り出すことに成功した。まず、何より今回のドイツの主力選手に怪我人はいない。強いて言えば負傷明けのGKノイアーくらいであろう。そして、最も脂の乗り切った年齢に達した黄金世代の選手達に加え、昨年のコンフェデ杯で優勝した若手のメンバーが食い込み、史上最高とも言える厚い選手層を誇る。
また、ヨアヒム・レーヴはテストマッチで控え選手を積極的に起用し、異なるシステムも十分にテストしてきた。相手や状況によっては3バックや2トップも利用してくるだろう。ドイツの戦術的バリエーションは過去に無いほど豊富であり、これは総力戦となるW杯では大きなアドバンテージだ。大会中の主力選手の不調、怪我、或いは累積警告での出場停止などのへ対応力も、間違いなく他のどこのチームよりも高い。
更にレーヴは、懸案であったFWのポジションに遂にティモ・ヴェルナーというストライカーをチームにフィットさせる事に成功した。そのオールラウンドな能力に加え、スピードを活かして積極的に裏へ抜け出すそのスタイルは10番エジルとの相性が非常に良い。その上にマルコ・ロイスという天才アタッカーが復帰したドイツの攻撃力は、私が過去に見たドイツ代表の中では紛れもなく過去最強だ。素早いコンビから生み出される攻撃は多彩かつ、完成度は極めて高い。
守備に関してもFCバイエルンでもコンビを組むフンメルス、ボアテングの守備は安定感十分の上に、一発で相手守備陣を切り裂くパス能力を持っており、対戦相手に前線からのプレスを許さないだろう。強いて言うなら、サイドバックの守備には一抹の不安があり、守備的なMFがやや駒不足の感もあるが、それでもこれまでの大会に比べれば十分に安定している。何より、今回は守備と攻撃が高いレベルで連動している。
このドイツの対抗馬と目されているのが、ブラジル、フランス、スペインと言った強豪国になるだろう。特にブラジルは対抗馬と言うより、世間ではドイツを上回る優勝候補として認知されている。しかし、私はドイツとこの3カ国とのテストマッチを観戦した上で言えば、ドイツにとって最も脅威であると考えるのはブラジルよりは寧ろフランスだ。
というのも、フランスはこの中でも最も計算できない強さを持つ相手だからだ。とりわけ、ムバッペ、デンベレ、グリーズマンらを擁する攻撃陣の破壊力は、ハマれば脅威のポテンシャルを秘めている印象を持った。ドイツは個々の勝負では太刀打ち出来ないだろう。その点から言えばブラジルはフランスよりソリッドだが、ネイマールを除けばまだ計算できる。
スペインは開幕直前の監督交代で間違いなく苦しくなった。ピッチ上でのスペインのクオリティの高さに疑問の余地は無いが、大会中のマネジメント力の低下は免れないだろう。何れにせよ、ドイツが苦手とするのは、型にはまらない、理詰めの分析で対応できない相手だ。
しかしそれでも、ドイツがロシアW杯で優勝する確率はこれまでになく私は高いと思っている。今回は大の苦手であるイタリアがいない。ロシアにはドイツ人が苦手の暑さも少ない。更にビデオ判定が導入され、延長戦で4人目の選手交代も可能になった。これらもフェアプレーで反則が少なく、戦術の引き出しも多いドイツには有利に働くのは間違いない。
巷で言われているドイツに不利な要素というのは「連覇はさすがに困難」、「前回優勝国は次の大会でグループリーグ敗退」といった科学的根拠のないジンクスが殆どだ。しかし、これも前回大会で「ヨーロッパの国は南米大陸開催で優勝できない」という多少は根拠のありそうなジンクスをドイツは破っている。連覇がどうして不可能だろうか。今回のドイツの総合力をもってすれば、それは十分にあり得る。それどころか私は、今回は攻守に圧倒的に質の高い内容を見せて優勝する事を期待している。まずは日曜日のメキシコ戦を注目したい。