トニ・クロース、奇跡のゴールでドイツをグループリーグ敗退から救う

昨日のスウェーデン戦、W杯史上初のグループリーグ敗退の危機に瀕するドイツは終了間際の劇的なゴールで勝利し、自力でのグループリーグ突破の望みを繋ぐ事に成功した。

メキシコ戦の内容が余りにも酷かったので、守備を固めてくるスウェーデンに苦戦することは想定内であり、下手をすればドイツが史上初グループリーグ敗退しても不思議ではないと思っていたが、その予想通り非常に厳しい試合となった。後半5分あるロスタイムの終盤、退場者も出した状況で、勝ち越しゴールを挙げたのは奇跡という以外にない。とりあえず個人的に気付いた点を考察してみる。

まず、この試合で注目されたのがスタメンとその布陣だ。これについてはメディアで様々な意見が飛び交い、試合開始間際まで情報が錯綜したが、結局レーヴは4-2-3-1のシステムは変更せずに、合計4人の選手を入れ替えた。

その中でレーヴは遂に10番メスト・エジルを外すというサプライズに出た。W杯、EUROを通じてエジルがスタメンを外れるのは2010年以来である。エジルの起用に関して世間の意見は真っ二つに分かれていたが、レーヴはこの試合に関しては、2列目に縦への動きと得点力を重視した布陣を選択した。エジルに代わってはロイスが大方の期待通り満を持してスタメン出場を果たした。

また、ケディラに代わってルディが中盤の底で先発出場を果たした。ルディはテストマッチでも殆ど起用されておらず、この位置にはギュンドアンの先発出場が有力視されていたので、これは大きなサプライズと言える。ルディは中盤の底から精度の高いパスでゲームをコントロールする司令塔タイプの選手である。厳しいマークが予想されるクロースの負担を軽減し、第2の司令塔としての働きが期待された。

ドイツにとって重要なのは可能な限り中盤でのポゼッションを高め、ピッチを広く使った素早いパス回しで相手を疲弊させる事だ。早い時間帯に先制点を取れれば勿論楽になるが、これは運もある事なので決して焦ってはならない。仮に前半が0-0であっても、しっかりと試合の主導権を握っていれば、相手の集中力、運動量が落ちた後半に勝ち越すチャンスは大きくなる。

そういう意味でも、前半に先制点を許したのはまさに大誤算だったと言えるだろう。しかも、よりによってこの失点の原因になったのはチームの頭脳でもあるトニ・クロースのパスミスだった。まさにチームが崩壊していく姿を見ているようであり、選手の様子からも明らかに動揺が見て取れた。史上初のグループリーグでの敗退はもはや必然にさえ思えた。

しかし、ドイツはここから立て直した。ドラクスラーに代えてゴメスを投入し、前線はゴメスとミュラーの2トップ、2列目は右にロイス、左にヴェルナーのシステムに変更した。そしてこれは功を奏したと言えるだろう。スウェーデンの守備陣はどっしりとしたFWに対応すべく下がり気味になり、ドイツはサイドの深い位置からボールが入るようになった。ロイスの同点ゴールは内容から言って至極妥当なものだ。

更に勝ち越し点が必要なドイツは、何度か良い形を見せながらもゴールを割ることが出来ない。やはり、FWの決定力という部分でドイツは課題を抱えていると言わざるを得ない。また、鮮やかなコンビネーションで綺麗に崩そうと言う意識が強すぎるのか、仕掛けが複雑すぎる。もっとシンプルに前線のFWに当てる形があっても良いのではないか。カウンターを警戒するのもあったのかもしれないが、スウェーデンは後半かなり疲弊していた。

ドイツが勝ち越し点奪えないまま時間は過ぎ、更にドイツを絶望の淵に陥れたのはボアテングが2枚目のイエローカードで退場になった事だ。前半クロースのパスミスに続き、ボアテング程の経験豊富なDFが冷静さを失うとは殆ど信じがたいが、これが現在のドイツのチーム状態を象徴している。同点に追いついた事で一度は膨らんだ希望もこれで潰えたかに見えた。私を含めた多くのファンはこれで諦めただろう。

しかし、この絶望的な状況の中、ドイツはロスタイムで左サイド深い位置でフリーキックのチャンスを得る。時間帯から言えばこの試合最後のアクションだろう。そして、キッカーのトニ・クロースはロイスが僅かに動かしたボールを直接ゴールに蹴り込み、奇跡の勝ち越しゴールを上げた。

試合後のインタビューによると、もともとはロイスがあの位置から直接狙いたかったらしい。しかし、クロースはゴールへの角度が悪すぎるためこれに納得しなかった。そこで、一旦ロイスに出して角度を良くしてからクロースが直接狙うという形に話し合って決めたそうだ。

私の記憶では確かにロイスはブンデスリーガの試合であのような位置からフリーキックを決めた事がある。とはいえ、あの角度は直接狙うには余りにも難易度が高いので、通常なら味方の相手に合わせるのが普通だろう。ましてや、ドイツ史上初めてのグループリーグ敗退のかかった試合のロスタイムの最終アクションだ。直接狙うという勇気だけで恐れ入る。

更にこのロイスの勇気に加え、あの形での遂行を決めたクロースの冷静な判断力とコミュニケーション、そしてそれを決めたキックの技術、そして勝者のメンタリティーには脱帽する以外にない。おそらく、これでドイツは幾分解放される。もしかしたらドイツに必要だったのはまさにこのような体験だったのかもしれない。ドイツのW杯はようやく始まったと言え、メキシコ戦で白けつつあった国内の雰囲気も変わってくるだろう。

しかし、まだドイツは次の韓国戦に勝利した場合でも、スウェーデンがメキシコに勝った場合、グループリーグで敗退する可能性がある。このシュミレーションはかなり複雑なので割愛するが、いずれにしてもドイツは出来るだけ得点差をつけて勝つ必要がある。そして、グループリーグを勝ち抜けたとしても、KOラウンドの初戦はブラジルと対戦する可能性が高い。昨日は勝ったが、依然として課題は山積みであり、厳しい戦いが続くだろう。