トーマス・ミュラーの絶不調で、大きく劣化しているドイツの決定力

土曜日の劇的な勝利の余韻がまだ冷めやらぬドイツであるが、明日には早くもグループリーグ最終戦の韓国戦が控えている。ドイツはグループリーグの突破を確実なものにする為には、この試合を2点差以上で勝利しなければならない。1点差での勝利ではスウェーデンがメキシコに勝利した場合、そのスコア次第ではドイツの敗退もあり得る。

韓国は普通に考えればメキシコ、スウェーデンよりは力は劣るが、今大会は強豪国は軒並み苦戦している事を考えると決して侮れる相手ではない。昨日もモロッコは既に敗退が決まった状況ながら、試合終了間際までスペインをリードしていた。ポルトガル対イランも然り。ドイツはまだ本調子には程遠く、依然としてグループリーグ敗退の重圧のある中で2点差をつけて勝つのは決して簡単なミッションではない。

とはいえ、韓国は理論上ドイツに勝利すればグループリーグ突破に僅かな望みが残されているので、こちらも攻めて来なければならない。そう言う意味ではドイツにとってはこれまでよりも幾分戦い易い試合になる。韓国については日本の方々の方がよく知っているだろうが、警戒すべきは現在トッテナムに所属するソン・フンミンだろう。ソンはレヴァークーゼンにも所属していたのでドイツの選手は特徴も掴んでいる筈だ。

ドイツのこれまでの試合で噴出した問題点は、中盤での無駄なボールロスト、カウンターに備えた守備、攻撃から守備への素早い切り替えだった。これらの課題は前回のスウェーデン戦で若干ではあるが改善が見られた。もう一つの大きな課題は決定力だ。

ドイツは攻めあぐねている印象もあるが、チャンスの創出能力に限って言えばやはり今大会屈指のチームである一端を見せている。あれだけ引かれた中で流れの中からコンビで相手守備を崩せるチームはそうはいない。

スウェーデン戦ではゴメスがFWに入り良い形でボックス内にボールが入るようになり、ヴェルナーも左サイドに移るとそのスピードを活かし相手守備陣に厄介な存在になった。オールラウンダーのロイスは今大会のドイツで唯一フィットしており、攻撃の軸になる存在となっている。ブラントも短い時間ながら相手の脅威になった。良い形は徐々に出つつある。問題はこれまでドイツ最大の得点源であったトーマス・ミュラーが依然として絶不調であり、これに伴ってチーム全体の決定力が落ちている事だ。

ミュラーは過去2回出場したW杯で合計既に10得点を決めており、ミロスラフ・クローゼの持つW杯通算得点記録が射程圏内に入っている。そしてそのような記録を出すまでもなく、ミュラーの決定力はこれまでドイツで最も信頼できるものだった。

しかし、ミュラーは今大会はそもそもシュート自体を打てる状況まで持ち込めていない。メキシコ戦ではシュート無し、スウェーデン戦でも僅か1本のみだった。一度ミュラーらしい泥臭さで惜しい場面もあったが、僅かにゴールを外れるなどツキにも見放されている。

それどころか中盤での組み立てやボールキープなどの不得手なプレーを相手に強いられており、そこでのボールロストを狙われる形になっている。レーヴが敢えて封印した筈のミュラーのFW起用をスウェーデン戦の後半で再び採用したのは、その辺の理由もあるのではないか。これまでの戦いを見る限りドイツは相当研究されており、どの選手も長所を消され、短所が現れるように上手く戦われている。その中でもミュラーは完全にリズムを崩していると言わざるを得ない。

ドイツは2試合で既にフィールドプレーヤー総勢20人のうち、フル出場しているのはクロース、キミッヒ、ミュラーの3人のみで、既に合計17人もの選手を投入している。次戦の韓国戦でも誰が起用されてもおかしくはない。既にレーヴは不動のトップ下だったエジルを外すという大ナタを振るったが、これまで不動の主力だったミュラーも、次戦はスタメン落ちが囁かれている。

しかし、たとえ今が絶不調でも、強豪との連戦が待ち受けるKOラウンドでは経験豊富で数々の修羅場を潜り抜けてきたミュラーの力が必ずや必要になる。全盛期の過ぎたゴメス、経験値の低いヴェルナーにミュラーと同じ仕事は期待できない。個人的にはミュラーをFWで起用するオプションはアリだと思っているが、ヨアヒム・レーヴがミュラーに関してどのような采配を振るうのか、ここでも注目が集まっている。いずれにせよドイツが優勝する為には、ミュラーの復活が不可欠だと言って良いだろう。