先週アルディに行ったらドイツ国旗模様のアイスが虚しく叩き売りされていた。まさかドイツがGLで敗退するとは思わず大量に仕入れたんだろう。確かに、これは誰にとっても想定外だった。しかし初戦のメキシコ戦を見たときに、多くの人は「これはやばい」と感じた。
そして実際にグループリーグの3試合を通じて見ても、殆どの時間帯でドイツのサッカーは敗者に値する酷いものだった。それは私から言わせれば、特定の選手の不調や、ミスに因るものではない。実際にレーヴは20人のフィールドプレーヤーのうちの実に19人を投入した。にもかかわらず、3試合とも出来に若干の差異があったのみで、試合内容に大きな変化は見られなかった。
つまり、チーム全体のシステム、戦略、マネジメントに問題があった事は紛れも無い事実だ。何故あのドイツが、W杯史上初のグループリーグ敗退と言う憂き目にあったのか、マネジメントをどこで間違えたのか、検証してみる事にしたい。
まず第一に指摘したいのは、明らかにチーム全体に自分たちは世界のトップであると言う奢りがあった点だ。3試合を通じてドイツのサッカーは明らかに高慢で、相手を見下している感が透けて見えた。これが国内のメディアでも最も指摘されている点であり、私も激しく同意する。最終的には、監督のレーヴも敗退後のインタビューで、そのような点があった事を認めざるを得なかった。
知っての通り、ドイツは前回大会の優勝国であり、そのメンバーの大半はロシアW杯にも出場した。彼らの多くは現在世界のトップクラスの選手と認知され、年齢的にも選手として最も脂の乗った時期に差し掛かってきた。チームの平均年齢は約27歳であり、決してロートル集団ではない。
また、ドイツ代表はヨアヒム・レーヴが監督になって以降、W杯、EUROでは必ずベスト4に進出してきた。更に昨年のコンフェデ杯では主力選手を休ませてBチームで優勝し戦力の底上げにも成功、W杯予選も全勝で早々と本大会への出場を決めた。これだけを見れば、ドイツはその伝統を含めて紛れも無く世界のトップである事に誰も疑いは持たなかった。
しかし、この2016のEUROからW杯予選突破まで順調すぎるチームの仕上がりが、今となっては落とし穴だった。レーヴはその後のテストマッチで主力選手を温存し、殆ど新しいメンバーの組み合わせや戦術のテストに利用した。
唯一ベストメンバーで真剣味が感じられた試合は今年3月のスペイン戦だが、これも前半だけでお役御免。その他の試合は完全な調整目的のヌルい試合だった。実績、実力のある選手たちなのだから、本番になれば自分たちでスイッチを入れる事ができると見越してのものだろう。普通にやれば勝てる。それよりも、怪我や疲労が心配だという事だ。
ところが、レーヴが絶大な信頼を寄せたこの主力選手たちはこの殿様待遇に慣れきってしまったのか、逆にW杯に対する真剣さ、覚悟を完全に失っていた。これは、最終的にキャプテンのノイアーも認めざるを得ないほど、周囲から見て明らかなものだった。結局のところ、これまでも本番では勝てたから今回もなんとかなるだろうと言う甘い見通しが、ファンやメディアのみならず、チーム内にも蔓延してしまったことは否めない事実だろう。
そしてドイツがグループリーグで最も重要なメキシコ戦を甘く見ていた事を端的に示すエピソードがある。この試合、レーヴは大方の予想を覆して2列目の左にロイスではなく、ドラクスラーを起用した。ドラクスラーは悪い選手ではないが、誰が見てもロイスには及ばない。しかし、驚いたのはこの起用は既に5月末に始まった合宿の時から決まっていた事だ。
レーヴはロイスに対し、「トーナメントは長期戦になるから、キミは重要な試合で使いたい…」とかなり早い段階で伝えていたらしい。このロイスの発言はメキシコ戦での敗戦の後のものだ。さすがにロイスもこの発言はマズイと思ったのか、途中で話を変えて丸く収めようとしたが、ドイツがメキシコ、そしてグループリーグを甘く見ていたことが白日の下に晒された。大会が長期戦になるのは、グループリーグを突破する事が前提である。
奢れるものは久しからずと言うが、少なくとも初戦のメキシコ戦に関して言えば、ドイツは相手を舐めていた。
では、ドイツ代表は本来なら世界のトップの実力があったのかと言われると、それも今となっては疑問が残る。何故なら、スウェーデン戦、韓国戦のドイツは超のつく本気モードだったからだ。それであの試合となれば、当然元々の実力にも疑問を持たざるを得ない。
思い当たる事はある。ここ最近クラブレベルで見れば、ドイツは再び欧州での地位を失いつつある。唯一、チャンピオンズリーグで上位進出が期待できるのはFCバイエルンのみだ。そのバイエルンも数年前の強さは無い。
他のクラブに至っては酷い有り様でチャンピオンズリーグは勿論、UEFAヨーロッパリーグで資金力のない東ヨーロッパのクラブに敗れる始末である。この状況は国内のバイエルン1強体制を含めて深刻な状況になりつつある。2013年にバイエルンとドルトムントがCLの決勝を戦い、2014年に代表がW杯の制して以降、ドイツサッカーは明らかに下り坂になっている。
そして、ノイアー、エジル、ボアテング、フンメルス、ミュラー、ケディラ、クロースといった主力選手は確かにそれぞれのポジションでは世界トップの実力者には違いないが、チームの核として沈没するチームを再び引き上げる程の指導力があるのか疑問を呈さずにはいられない。彼らがクラブで結果を出せているのは、周りにチームを引っ張る優秀な選手がいるからではないのか。
FCバイエルンは依然として強いかもしれないが、フィリップ・ラームの引退以降、明らかに勝負弱くなった。トニ・クロースが世界最高の8番なのも、マドリーにモドリッチ、ロナウド、ラモスがいるからではないのか。エジルに至っては加入以降アーセナルの成績は寧ろ下降気味ではないか。
詰まるところ、この自らに対する過大評価が、ドイツの目も当てられないような歴史的惨敗の理由の一つである事は疑いのない事実であろう。