NL第1節:世界王者フランスと互角に渡り合い、引き分けたドイツ代表

ロシアW杯での史上初のグループリーグでの敗退、人種差別によるメスト・エジルの代表引退で揺れに揺れたドイツ代表は、木曜日に今年から新たに創設された大会、ネーションズリーグでフランス代表と対戦した。

当日はドイツ代表の再出発を観戦すべく多くの人がミュンヘンのアリアンツ・アレーナに詰めかけた模様で、夕方になると多くの他都市ナンバーの車を見かけ、アウトバーンはいつにも増して交通量が多かった。W杯、EURO以外でこれ程注目された試合は過去に無いと言って良いだろう。言うまでもなくフランスは先のロシアW杯の覇者であり、ドイツ代表はこの最強の相手を前にして、是が非でも国民に対しW杯とは異なる姿を見せなければならない。

この試合に際してまず最も注目されたのが、ヨアヒム・レーヴがどのようなメンバー、そしてシステムで試合に臨むかという点であった。レーヴは既に公表したW杯の分析において、頑ななまでに拘ったポゼッションサッカーが間違いであった事を認め、更には自らが傲慢であったとさえ言い切った。そして、ブラジルW杯で優勝した2014年の戦術が最も攻守のバランスが取れた状態であったとの結論を下していた。

そして、そのレーヴの分析通り、ドイツ代表はまさに2014年の形に回帰した選手構成、そしてシステムでこのフランス戦に臨んだ。つまり、4バックの4人をを全てセンターバックで固め、守備的なMFを中盤の底に1人配置した4-1-4-1或いは4-3-3とも言えるシステムである。そして、この中盤の底にはこれまで右SBを務めていたキミッヒが入った。2014年も当時右SBであったラームがこのポジションに入ったので、そういう意味でもまさに2014年を想起させる布陣だ。

GKはノイアー、4バックは右からギンタ―、ボアテング、フンメルス、リューディガー。先に挙げたアンカーの位置に入ったキミッヒの前には、右からミュラー、ゴレツカ、クロース、ヴェルナーが入り、1トップにはロイスが入った。

ヴェルナーが2列目左に入ったのは、ロシアW杯のスウェーデン戦である程度機能することが判明したのが理由だろう。しかし、ロイスの1トップはやはり苦肉の策だ。ドイツには残念ながら優秀なFWが枯渇している。その中でドイツで敢えてFWが出来そうなのは、アタッカーとして最もオールラウンドかつ高い能力を持つロイスであろう。

試合が始まると、やはり例によってボールを支配するのはドイツだ。ドイツは以前のような極端な攻撃偏重のスタイルではないものの、やはりクロースを中心としたパスワークから試合のリズムを掴んでいく点は変わっていない。また、フランスも高い個人能力による強力なカウンターを得意としているチームであり、そのような展開になるのは必然と言えるだろう。

但しドイツはフランスのカウンターをかなり警戒しており、無理にリスクを冒すことなく慎重に攻めていく。中央からの突破やコンビで崩そうとする場面は少なく、安全なサイドからクロスを入れていく攻めが殆どだ。そして、ボールを奪われれば前線の選手が積極的に守備に参加し、フランスに攻め手を与えない。これはロシアW杯には見られなかったポジティブな点だ。

ドイツは前半の終盤までフランスのシュートを0本に抑え、守備に関しては非常に安定した試合運びをみせた。しかし、守備を重視した布陣、意識のせいか攻撃力はかなり削がれており、決定的なチャンスを得るまでには至らない。やはり急造である両SBの攻撃力の低さが目立つ展開であり、中央でも期待の若手であるゴレツカが連携プレーに上手く絡めない。

前半も終盤になると、フランスがやや前線のプレスから攻勢をかける時間帯が出てきた。ムバッペ、グリーズマン、ポグバらの驚異的な個の能力を持つフランスは意外性に満ちた攻撃を仕掛けて来る。攻めている時間帯こそドイツより少ないが、攻撃における危険度は上回っている感がある。

後半の立ち上がりからペースを掴んだのはフランスだ。フランスは前線のプレスから高い位置でボールを奪い始め、ドイツの守備陣は後手に回る場面が散見されるようになる。49分にはグリーズマンがフリーでPA内やや右から強烈なシュートを放った。これはノイアーの正面で事なきを得たが、64分には再びグリーズマンがゴール正面やや左から狙いすましたミドルシュートを放ち、これはノイアーが横っ飛びで間一髪失点を免れる。

しかし、ドイツはこのピンチから素早い好守の切り替えで右サイドを崩し、ロイスがゴール正面から決定的なシュートを放った。これは相手GKの好守に阻まれたが、ここからドイツが攻勢に出る。ドイツはカウンターからフンメルス、コーナーキックからギンターが立て続けに決定的なチャンスを得るなどして、得点は時間の問題かと思わせる程フランスを劣勢に追い込んだ。70分以降は完全にドイツのペースだったと言えるだろう。しかし、結局得点を奪う事が出来ないままペースは次第に落ちていき、試合は0-0のまま終了した。

ドイツに関しては、明らかに守備に重点をおいた戦いぶりを見せ、最終的にW杯覇者のフランスの強力な攻撃陣を無得点に抑えたのは大きな収穫だったと言える。本当に久しぶりのクリーンシートだ。

また、前線の選手も積極的に守備に奔走し、90分間を通して戦う姿勢を見せてくれた。何故、このような戦いをW杯本番でできなかったのか非常に惜しまれる。結果は別にしても、少なくともあれほど無残にカウンターの餌食になることは無かったであろう。勝利こそ残念ながら得られなかったが、ドイツは先のW杯とは違う姿を見せる事に成功し、ひとまずは再起に向けて非常に重要な一歩を踏み出した。

一方で今後の課題に目を向ければ、守備を重視した戦術の結果かなり攻撃力が削がれた感は否めない。両SBは急造かつ攻撃を得手としない選手であるので計算済みだが、中央からの攻めに工夫が見られず、これはやや物足りなかった。

やはりこの試合を見る限り、諸刃の剣でもメスト・エジルのチャンス創出能力は大きかったと言わざるを得ない。特に今日スタメンだったゴレツカはエジルとはまた違ったポテンシャルの大きい選手ではあるが、昨日はほぼ消えていた。数少ないボールタッチの際にもミスが目立ち、非常に落胆させる出来だったと言える。

そして、以前からの課題であるが、やはり優秀なFWが存在しないことはドイツの大きな問題だ。ロイスは時折ミュラーとポジションを入れ替わりながらワントップを務めたが、得意のアイデア、スピードに溢れるプレーが削がれてしまい、今回の試みはハズレだった感がある。ロイスはやはり2列目の選手であり、レーヴは新たなFWを発掘しなければならない。唯一使えそうだったサンドロ・ワーグナーはW杯で代表を干された事で怒りの引退を表明してしまったので、このポジションは暫くは流動的な起用が続くだろう。

全体的にはゴールこそなかったものの、強豪国同士の非常に見どころの多い好試合だったと言える。途中出場で入ったギュンドアンもW杯前のテストマッチでは例のエルドアンとの会合で強烈なブーイングも浴びたが、今回はそういった事もなく、スタジアムの雰囲気も概ね良好であることを伺わせた。まあ、これは観客が割と品の良いミュンヘンでの試合だったこともあるかもしれない。

また、このネーションズリーグという大会も多くの批判があるが、個人的には注目に値すると思っている。なぜなら、強豪国同士の対戦であるだけでなく、少なくともグループリーグではホーム&アウェイでの2試合が行われることで、より質の高いサッカーをするチームが勝ち上がる確率が高くなるからだ。

ロシアW杯を見る限り世界各チームの差はかなり縮まって来ており、W杯やEUROのような一発勝負ではサッカーの質や内容が結果に反映されない事が増えてきた。守備を固めてカウンター、セットプレーに重点を置いたチームが躍進し、PK戦での決着が多かったのもそれを象徴している。

逆に決勝戦まですべてH&A、そしてアウェイゴール2倍のルールが適用されるUEFAチャンピオンズリーグではほぼ毎年レアル、バルセロナ、バイエルンなどの攻守に高い組織力と個の能力が融合したチームが勝ち上がる。その制覇が今やW杯やEUROを上回るステータスを持ち隆盛を誇っているのは、それが理由の一つでもあるだろう。

そして最後に、世間を騒がせたメスト・エジルの件についてレーヴがコメントしたので、それに触れておきたい。レーヴはエジルに何度もコンタクトを取るべく電話をしたが、エジルは電話に出ることもなく、現在まで折り返し電話もしてきていないとの事だ。これについて、レーヴは非常に落胆していると述べた。当然だろう。レーヴは10年近くも選手としてエジルに絶大な信頼を寄せており、不動のトップ下として起用してきた。

それがここに来て直接連絡もなく引退し、突如音信不通になるのは人間的には納得しかねるだろう。本来ならばエジルの方からレーヴにコンタクトを取るべきであり、レーヴもそれを期待していたとの事だ。レーヴは今後ともエジルのコンタクトをトライすると一応は述べたが、レーヴはこう言ったピッチ外の言動や振る舞いも非常に重視する監督である。現状から言えば、エジルの代表復帰の道は絶たれたと言えるだろう。このエジルの振る舞いについてはファンとしても非常に残念であるとは言っておきたい。