政権の信頼を更に失墜させる、連邦憲法擁護庁長官マーセンを巡る仰天人事

約一カ月程前、ザクセン州の都市ケムニッツで外国人がドイツ人を殺傷し、ネオナチを含む大規模デモなどで街の治安が著しく悪化したのは記憶に新しい。一部の連中はヒトラーの敬礼をするなど完全にやりたい放題で、制御不能になっていた事を窺わせた。

その中で一つ焦点になっていたのが、これらの極右連中による外国人を標的とした襲撃行為があったかと言う点だ。知っての通りドイツは過去の歴史から外国人への迫害、暴力といったテーマには非常に敏感であり、かなり厳しい断固とした対応を取る。

そして、このような極端な政治思想に基づく暴力、テロ行為などを監視し、諜報活動を行う機関がドイツには存在する。それが連邦憲法擁護庁である。そのトップがハンス=ゲオルグ・マーセンであった。そして、このマーセンこそが、今回の騒動の中心人物である。

問題の発端となったのが、8月26日のケムニッツの様子を写した一つのビデオである。ネットが発達した今日、ケムニッツでの暴力、破壊行為を撮影したビデオは幾つもあるが、このビデオにはドイツが最も神経を使う、外国人襲撃の現場が撮影されていた。

そこには黒づくめの大柄な男がイスラム系外国人と見える男性を猛烈な勢いで道路上で追いかけ回し、外国人を差別する言葉を叫んでいる。誰がどう見ても、極右思想の持ち主が外国人に暴行しようと試みている証拠映像である。このビデオの解釈を巡っては政界で激しく議論されたが、常識的に見ればケムニッツで外国人差別に基づく暴力、襲撃行為が発生していた事が白日の下に晒されたと言って良いだろう。この他にも、数々の外国人に対する暴力行為が報告されている。

しかし、このような明確な証拠とも言える映像があるにも関わらず憲法擁護庁長官マーセンはケムニッツの情勢について大衆紙ビルトで驚くべき発言をした。平たく言えば、マーセンはケムニッツで外国人が襲撃されているという信憑性のある情報は得ておらず、問題となっているビデオも左翼の連中が仕組んだ偽物の映像である可能性が高いとの見方を示した。

そして、当然のことながら多くの国民、政治家がこの発言を問題視した。なぜならマーセンはこのビデオが偽物であるという根拠を示さなかったからだ。結局マーセンはこの根拠を示さないまま、数日後にはビデオは本物である事が確定された。

そして、このマーセンの発言は極右連中の暴力行為のみならず、根も葉も無いような陰謀説を助長するものとして各方面から厳しく非難される事態となった。この発言は確かに聞き手によって解釈が異なる微妙な言い回しでもあったが、国の諜報機関、国家の治安に重要な役割を果たす機関の長として著しく中立性を欠いた、不適切な発言だったと言わざるを得ない。非難を浴びるのも止むを得ないと言える。