オランダに惨敗したドイツ、レーヴの進退問題は必至となる

昨日はネーションズリーグ第2節オランダ対ドイツがアムステルダムで行われた。オランダと言えばドイツにとって、かつては最大のライバルだった。特に1990年前後は両チームとも優秀な選手を揃え、W杯やEUROで好勝負を演じてきた仲だ。とりわけ、オランダのその最先端の華麗な攻撃サッカーはドイツにとって憧れでもあった。しかし、ここ数年に限って言えばオランダは低迷している。EURO2016、ロシアW杯では予選敗退しており、まさに大がかりな再建の真っ最中と言えるだろう。

一方のドイツも知っての通りロシアW杯で惨敗し、チームの再構築を余儀なくされている。しかし、この再建は主に戦術的、メンタル的なものであり、オランダのような大掛かりな世代交代まで伴ってはいない。確かに現在ドイツは主力となるバイエルンの選手が不調なのはかなりの不安材料であるが、ここ数年の実績、経験から言ってもドイツはこの試合は勝たなければならない。記憶にある最近の対戦はEURO2012のグループリーグだ。この時ドイツはオランダに2-1で勝利しており、内容から言ってもドイツの完勝だった。

ドイツはこの試合、前回のテストマッチであるペルー戦に続き4-3-3のシステムを採用した。注目は今回代表初招集を受けたウートがいきなりFWでスタメンで起用された事だ。更に右センターハーフの位置には今回久しぶりに代表復帰したエムレ・チャンを起用、左サイドバックはロシアW杯以来ヨナス・ヘクターが復帰した。全体的に見れば、やや守備を重視したシステム、メンバー構成と言えるだろう。

試合はまずは両チームとも相手をリスペクトした慎重な立ち上がりを見せる。中盤でのボールの奪い合いがメインとなる緊迫した展開だが、次第にペースを掴んでいったのはドイツだ。ドイツはコンパクトな守備でオランダに全くチャンスを許さず、攻撃では左サイドのヘクター、ヴェルナーが絡むコンビネーションで良い形を作る。しかし、ドイツの問題は「良い形」で終わってしまう事だ。例によって肝心のゴールが得られない。

すると30分、オランダはコーナーキックからヘディングシュートを決めて先制する。競り合ったフンメルス、ヘクターも連係ミスからあっさりとヘディングを許し、更にノイアーが飛び出してボールに触れないという致命的なミスを犯した。攻めても得点できず、相手のワンチャンスで得点を許すというロシアW杯まで見られたお馴染みの展開だ。

こうなるとドイツは当然やや前がかりになって攻めていくが、これでかえって攻守のバランスが崩れて逆襲を喰らうようになる。オランダはここぞとばかりに前線からプレスをかけ始め、試合はオープンな展開となり、一進一退の攻防が繰り広げられた。ドイツは37分にミュラーがゴール正面やや右から決定的なチャンスを得るが、シュートは右に外れた。はっきり言えば、これを決めなければミュラーを使っている意味はない。衰えたのか、余程調子が悪いのか、何れにしてもミュラーの評価は私の中で最近著しく落ちている。前半は0-1のまま終了した。

後半が始まってもオランダは前線からのプレスでドイツのミスを誘発し、素早く直線的な攻撃でドイツゴールに迫る。もっとも、オランダの攻めは相当雑でドイツはこれに助けられた。展開が変わったのはドイツが55分にミュラー、チャンに代えてサネ、ドラクスラーを投入してからだ。これでシステムは4-3-3からドラクスラーをトップ下、サネを2列目の左に据えた4-2-3-1となり、ロシアW杯仕様のポゼッションスタイルに移行した。

するとこれがハマり、ドイツは次々とチャンスを作りだす。最大のチャンスは64分、中央キミッヒのスルーパスからサネがゴール至近距離から決定的なシュートを放つ。これは超のつく決定機だったが、サネのシュートは僅かに外れた。ドイツはとにかくシュートが枠に行かない。酷い決定力不足だ。そうこうするうちにドイツの選手には疲れが見え始める。ボアテングが負傷したが、ドイツは既に交代枠を使い切った為、ボアテングはそのままピッチに残る。

こうなると、再びオランダが前線からのプレスでドイツを劣勢に追い込み始める。ドイツは焦りと疲れの為か組織が崩壊しミスを連発し始めた。そして遂に86分、93分に立て続けにショートカウンターを喰らい2失点を喫することになる。何れもドラクスラーの自陣での軽率なボールロストによるものだ。ドラクスラーは若くても代表では最も経験豊富な選手の一人である。なぜ、その才能の割に伸び悩んでいるのか、象徴しているプレーだとも言えるだろう。結局、ドイツは0-3でオランダに16年ぶりの敗戦を喫した。

まずオランダの印象を述べておくと、再建中と言う触れ込み通り、まだチームとしては粗削りな印象を受けた。とりわけ、数々のカウンターチャンスにおいて雑なパス、フィニッシュでドイツを大いに助けた部分は大きい。守備面でもややコンパクトさに欠けており、ドイツのパス回しに後手に回る場面も散見された。世界のトップに届くにはまだ道半ばといった感がある。

チームのスタイルとしては、かつての試合を支配する華麗な攻撃サッカーでもなく、2014年のW杯でファン・ハールが見せたようなガチガチの戦術サッカーでもない。ちょうどドイツが低迷期に志向した、中盤高い位置のプレスから縦に速い攻撃的サッカーを志向しているように見えた。昨日は若い選手を多く起用しており、あくまで将来が非常に楽しみなチームと言える。とりわけ、現在アヤックスに所属し、昨日はセントラルMFとしてプレーしたデ・ヨンクはヨーロッパのビッグクラブが獲得を狙っている逸材とされる。

一方のドイツであるが、昨日の試合で最大の問題点となったのが、毎度お馴染みの決定力不足だ。昨日は合計21本のシュートを放ち、その内には幾つかの決定的なチャンスもあったが、とにかくシュートが枠に行かない。そして更に厄介なのは、この決定力不足に関しては何が理由でどうやって改善できるのか、誰もはっきりとは分からない点だ。これには運もあるし、多くは選手のメンタルに左右される。もちろん、優秀なFWがいないのは分かっている。昨日先発したウートも前半こそ積極的な守備から良い動きを見せたが、後半は完全に消えた。しかし、それを差し引いても、ドイツの決定力不足は絶望的なレベルと言って良い。

また、とりわけ現在深刻な問題と言えるのが、主力となるFCバイエルンの選手の絶不調ぶりである。昨日の試合もバイエルンの調子の悪さがそのままドイツ代表のでのパフォーマンスに反映された。ノイアーは稀に見る致命的なミスで失点を許し、ミュラーのシュートは入る気配すらない。

ボアテング、フンメルスのコンビは見るたびに不安定さを増しており、とりわけ1対1で鉄壁の強さを誇ったボアテングの劣化は明らかだ。ビルドアップでも昨日はあり得ないパスミスを連発しており、寧ろ危険因子になっている感すらある。唯一及第点を与えられるのはキミッヒのみだ。クラブでのパフォーマンスを含めて復調が待たれるが、このままでは絶対的な主力だったバイエルン・ブロックにメスを入れる必要があるだろう。

そして昨日の試合を見る限り、ドイツは総じてロシアW杯での問題を改善できていない。もちろん、改善しようという姿勢は見える。縦に速い攻め、安定性を重視した守備ブロック、ボールを奪われたあとの素早い寄せなど、先制されるまでは試合をコントロールしており、決して悪くはなかった。しかし、結局はその後見せられた光景は惨敗したW杯と何ら変わるものではなかった。決定力不足、カウンターへの脆さ、そして崩壊する組織。選手たちは明らかに自信を失っている。

今回の惨敗を受けて、間違いなくヨアヒム・レーヴの進退問題が再燃するだろう。そして、もしも次戦のフランス戦で再び改善の兆しが見えないようなら、監督交代という荒療治も十分にあり得る。詰まるところ、ドイツサッカーがここ数年で内容で勝っていながら、結果を出せない体質になっている事は大きな問題と言える。今後ヨアヒム・レーヴにチームを任せられるのか、疑問が沸くのは至極当然といえるだろう。火曜日行われるフランス戦がその意味で非常に注目される試合になることは間違いない。