イギリスからドイツへ国籍を変更する「Brexit移民」が急増している

イギリスのEUからの離脱”Brexit”が国民投票で決定したのは2016年の6月だったと記憶している。それ以来、ドイツへ国籍へ変更するイギリス人が急増しているとのことだ。ドイツ内務省の広報による発表によると、2015年に59件だった申請数は、2016年には760、2017年には1824件にもなった。今年は9月末の時点で1147件が申請された。

このうちの大部分は1933年から45年にかけてナチスによって政治的に迫害され、イギリスに亡命したユダヤ人の子孫である。これらの政治的、或いは人種差別的な理由で当時ドイツ国籍を剥奪された人々、或いはその子孫は、今日再びドイツ国籍を取得できる権利がドイツの基本法で定められている。つまり、当時イギリスへ亡命しドイツ国籍を捨てた子孫が、Brexitをきっかけに今度はイギリス国籍を捨て、再びドイツ国籍を取り戻すという動きが活発化している。

もちろん、これらの人々は当時のドイツと異なり、イギリスで迫害されている訳ではない。しかしながら、Brexitによって当然これまでEUと関わりを持つ生活をして来たイギリス人には著しい不利益が生じる事になる事は明白だ。

イギリス国民がBrexitに踏み切った最大の理由の一つは、多くの外国人が入ってくる事や、EUのルールに従って難民を受け入れるのを拒否したいからだろう。しかしEUを脱退すれば、今度は自分たちがEUへ出るのもこれまでのように簡単ではなくなる。ましてや、滞在し、労働しようとなると益々難しくなる。

そう言う訳で、EU圏内で移動の自由、労働の自由が認められているドイツ国籍の方がメリットが大きいので、この際だからドイツ人に戻った方が得だと言う事だろう。

ところで、イギリスはBrexitで外国との人の交流を制限する一方で、当然ながら物の流通に関してはEUの単一マーケット内に留まり自由に継続したいと考えている。経済面だけを考えれば、EUにとってもその方が都合が良いに決まっている。しかし、そうは問屋が卸さない。EUはここまでイギリスに妥協しない強硬な姿勢を貫いている。

というのもおそらく、EUがイギリスに譲歩して目先の経済的な利益に走り、簡単に自由貿易協定など締結すれば、ポーランドやハンガリーなどのポピュリスト政権はそれに続けとばかりにEU離脱を図る事は間違いない。そんな事になればEUは本気で崩壊する。EUはたとえハードブレグジットで経済的損失や混乱が生じるリスクを犯してでも、ギリギリまでイギリスには譲歩しない。

フランス大統領マクロンは「EUはアラカルトのメニューではない」と言ったそうだが、全くその通りだ。つまり、脱退しておいて、相手の足元を見ながら良いところ取りなど認められない。

そもそも、EUは単なる経済共同体ではない。価値観や理念の共同体でもある。そのようにして異なる国々が精神的にも歩み寄り、ギクシャクしながらも共通の利害を持って多くの国がパートナーになった結果、ヨーロッパはここ何年も戦争のない続いてきた。過去にどれだけ多くの馬鹿げた戦争で国家間の問題を決着して来たかを考えれば、現在の平和は奇跡的とさえ言える。しかし、それも昨今の情勢を見れば、危うくなっていると思わずにはいられない。