遂に終わりを告げ始めた、女帝メルケルの時代

月曜日にドイツを揺るがすニュースが駆け巡った。ドイツ最大与党CDU(キリスト教民主同盟)の党首であり、ドイツの首相でもあるアンゲラ・メルケルが遂に事実上の退陣の意思を表明したからだ。

メルケルはひとまず、今年の12月に開催される党大会で党首として立候補せず、18年間に渡り努めてきたCDUの党首を退く事を明らかにした。また、14年に渡り努めている首相職については任期期間中である2021年まで留まる意思を示したものの、その後は政界から引退する意思を表明した。つまり、退陣は段階的に行われる事になり、今回の発表はその第一段階という事になる。

しかし、メルケルも演説で述べていたが、与党を率いるCDUの党首を退いて、首相の座に留まるというのは前例がない。メルケルの後釜が誰になるかにもよるが、党首を退いた状態で首相の座に3年留間まる確率は低いだろう。それだけ、現在の大連立政権はガタガタでいつ壊れてもおかしくない。

もちろん、これらの政治の混乱と崩壊は直接的にはメルケル一人の責任ではない。ジャマイカ連立の成立寸前でメルケルに反旗を翻したFDP党首クリスティアン・リンドナーや、難民問題を盾にした馬鹿げた権力闘争を挑み国民を呆れさせたホルスト・ゼーホーファー、もはや何のために存在しているか不明なSPDにも大きな責任がある。しかし、これも元を正せばにはメルケルの求心力、首相としての権力がどん底まで落ちていた事に因るものだ。

そして、このメルケルの転落が始まったのが、やはり2015年の難民問題という事だろう。確かにドイツの国際的、そしてEUにおける中心的な立場、また人道的、法的な面から言ってもここで難民を受け入れる事自体はやむを得ない選択でもあった。

しかし、メルケルは難民の受け入れに際し”wir schaffen das”=「私たちはできる」と言う言葉で、いささか大風呂敷を広げ過ぎてしまい、その流入を十分にコントロール出来なかったのは致命的だったと言える。これが結果的に右派ポピュリスト連中の台頭を招いた事実は否めない。

その結果、至る所で”Merkel muss weg”=「メルケル出て行け」のスローガンを聞くことになった。そして、そのように叫ぶ連中にとっては、メルケルが出て行けば問題は解決なのである。他が誰で、政治的に何ができるかなどはどうでも良い。

しかし今回、メルケルが近い将来の退陣を表明したからと言って、決してバラ色の未来が約束されている訳ではない。難民問題だけでなく、エネルギー、Brexit、年金、インフラ、高騰する不動産価格、社会格差など、ドイツには膨大かつ複雑な問題が横たわっている。

これから本当に重要なのは、メルケルの後を誰が引き継ぎ、このような問題をどのように解決し、ドイツ、そしてその国民をどこへ導いて行くかだ。そして、この激動の時代、18年間という長きに渡りCDUの党首を務めてきたメルケルの影は決して簡単に消える事はないだろう。

これまでのところ、現CDU幹事長アンネグレート・クランプ=カレンバウアー、健康相イェンス・シュパーン、そして独ブラックロック監査役フリードリヒ・メルツがメルケルの後釜にCDUの党首選への出馬の意思を表明している。そして、この勝者が近い将来誕生するドイツの新しい首相になるだろう。既にメルケルの後継者争いの火蓋が切って落とされているが、極めて予想の難しい戦いになる見込みだ。