今年のブンデスリーガは近年になく目の離せない展開になっている。過去5年間、国内で圧倒的な強さを誇ってきたFCバイエルンが遂にボルシア・ドルトムントの後塵を拝する展開になっているからだ。
両者とも10試合を終えて失点は11で同じだが、差になっているのは得点力だ。19得点に留まっているバイエルンに対し、一方のドルトムントは既に30得点を叩き出した。とりわけ、遂に万全の状態でシーズンを迎えたマルコ・ロイスは、6得点6アシストと大車輪の活躍を見せている。
首位のドルトムントが3位のバイエルンをホームに迎えた今日の直接対決は、今年のブンデスリーガの行方を占うだけでなく、このドルトムントの強さが本物かどうか確かめる上でも非常に注目される試合となった。
試合が始まると、いきなり両チームとも速いテンポの激しい攻防を繰り広げ一瞬たりとも目の離せない展開となった。あくまでボールを保持して試合を支配する事を試みるバイエルンに対し、ドルトムントは固い守備から快速のカウンターでバイエルンゴールに迫る。現在の順位とは裏腹にドルトムントがバイエルンを格上と見ている展開だ。
そしてこの激しい攻防の中、先にペースを掴んだのはバイエルンだ。バイエルンは素早いパス回しからサイドを徹底的に攻め、徐々にドルトムントのボールを奪う位置が後ろに下がり始めた。更にボールを奪われた後のゲーゲンプレッシングが機能し、ドルトムントに攻め手与えない。徐々にバイエルンが波状攻撃を仕掛ける場面が増えていく。そしてその展開通り、25分にレヴァンドフスキがニャブリのクロスを頭で決めて先制した。
バイエルンはその後も試合をコントロールしながらも、30分あたりからは徐々にペースダウンし敢えてドルトムントにボールを持たせるようになる。同点に追いつきたいドルトムントだが、要所を締めるバイエルンの老獪な守備の前に全くチャンスを作れない。前半はバイエルンが格の違いを見せつけるような展開となった。
しかし、ドルトムントは後半いきなり同点に追いつく。サンチョの縦パスに抜け出したロイスをノイアーが倒し、このPKをロイスが落ち着いて決めた。普通に速いだけの選手ならノイアーは先にボールに触っていた筈だが、ロイスは並の速さではない。更にロイスは足だけでなく頭の回転も極めて速い。あのノイアーでさえ後手に回った。
バイエルンはその僅か3分後に右サイドの見事なコンビネーションから再び勝ち越すが、時間が経つにつれてホームのドルトムントが圧倒的なスピードで優位に立つようになる。59分、62分の決定的チャンスを逃した後の67分、右サイドの低い高速クロスを再びロイスがダイレクトでゴール左隅に決めた。かなり難易度の高いシュートだったが、あの高速クロスをダイレクトで狙える判断とそれを決め切る技術、そして決定力は見事と言う他ない。
更にドルトムントは73分、カウンターから交代で入ったパコ・アルカセルがノイアーと1対1となり、これを冷静に決めた。これもバイエルンのゲーゲンプレスをあざ笑うかのようなロイスの絶妙なヒールパスがポイントとなりビッグチャンス、勝ち越し点に繋がった。
試合はこのままドルトムントがバイエルンを3-2で下し、注目されたブンデスリーガの頂上対決は、バイエルンの国内1強時代に終止符を打つかのような結果となった。私はこの試合をわざわざ10ユーロもするペイTVの1回券を購入して観戦したが、その甲斐あった素晴らしくレベルの高い、見ごたえのある試合だった。
そして、この試合の私のハイライトは言うまでもなく、その圧倒的な速さ、巧さ、そして決定力を見せつけたマルコ・ロイスだ。数字やメディアの報道を見る限り好調だとは聞いていたが、実際に見れば今やロイスはもはや手の付けられない程のとんでもない絶好調だといえる。まあ決定力に関しては、この日2回のチャンスを外しているので100点満点とは言えないかもしれないが、今日の試合を見る限りドルトムントは完全にロイスのチームだ。今日はあのFCバイエルンを完全に手玉に取った。
ロイスはもともと2列目の左を主戦場とするウィングだったが、今シーズンは主にトップ下で出場している。ロイスは今や元々評価の高かったスピードに加え、テクニック、視野の広さ、アイデアの豊富さ、キックの精度、決定力のすべてを兼ね備えたドイツ最強のアタッカーだ。この中央で攻撃における全権の自由が与えられるポジションでプレーさせてこそ、その高い総合力を最大限に活かせるという事だろう。
そして、もしもこのままロイスが怪我無くシーズンをフル稼働できるようであれば、ドルトムントは今年ブンデスリーガを優勝するだけでなく、チャンピオンズリーグでも台風の目になる可能性がある。チームとしても今日は前半の劣勢を、後半の選手交代で巻き返すことにも成功した。これまでドルトムントはその選手層の薄さが致命的な弱点でもあったが、それも今年は解消されている印象を受けた。間違いなくドイツ代表でも攻撃陣はロイスが軸になってくるだろうから、長いシーズンを戦い切る為には休ませることも必要になってくるだろう。