ここ暫くドイツ鉄道を利用していないのだが、ニュースを読めばますますその遅延は酷くなっているらしい。10月の長距離列車(ICE,IC,EC)の定刻運行率は何と71,8%にまで落ち込んだ。長距離列車は殆どドイツ鉄道の独占状態なので、ドイツで長距離列車に乗れば殆ど3割の確率で列車が遅延するという訳だ。これだけでも先進国として甚だ疑わしい状況なのだが、更にドイツ鉄道の解釈では6分以内の遅延は公式には遅延に該当しないという注釈も付け加えておく必要がある。
誤解の無いように言っておけば、これはもちろんドイツ鉄道が決めた基準であり、一般ドイツ人の基準とは異なる。もはやインターネットの普及などで、諸外国に比べて自国の鉄道のレベルが絶望的に低い事はドイツ人は皆が知っているからだ。決してドイツの国民性や文化などではなく、あくまでドイツ鉄道が普通ではない。
そして、ドイツ鉄道に言わせれば、10月の定刻運行率が酷かったのは10月12日にケルンーフランクフルト間でICEが突如発火するという事故が発生し、この区間が暫く運行不可能になったからだとの事だ。失敗したときにその理由を言うのは当然の振る舞いだが、遅延よりもこちらの事故の方があり得ない。幸いな事に全員が無事に脱出できたので事無きを得たが、本当に機材をまともにメンテナンスをしているのか甚だ疑わしい。
メンテナンスと言えば、席が予約されている事を表示する電光掲示板が故障している事も頻繁にある。これで自分が予約していた席に誰かが先に座っているなんてことはお約束だ。これはもちろん、自分のチケットを見せて退いて貰う事になるからまだ解決可能だが、一度だけ予約した列車番号、席番号がそもそも存在しないという問題にすら出くわしたことがある。運良く別の空いてる席を見つけたが、まともにシステムを管理できていない印象がある。
遅延について話を戻せば、そもそも9月の定刻運行率も72,3%で若干ましな程度だ。ドイツ鉄道は今年の年間定時運航率の目標値を82%に設定していたが、この低レベルな目標も既に夏の時点で達成できないことが明らかになっている。
ドイツ鉄道はこれを受けて既に2022年までに50億ユーロを投資して、状況を改善しようと試みるそうだが、その金がどこから出てくるかはまた微妙な話になる。南ドイツ新聞によると、ドイツ鉄道の借金は記録的な額になっており、自らこのような大金を投資する体力はない。
これは何年も前から物議を醸している巨大プロジェクト”Stuttgart21″の費用が膨大なものに膨れ上がっているからだ。では、ドイツ鉄道を所有する国が金を出すかと言えば、これも全額捻出することは難色を示されている。要するに、このような話は例によってチケットの値上げという形で我々利用者に跳ね返ってくる可能性がある。
しかし、先週のニュースによるとEUは列車の遅延に際には利用者がより多くの返金が得られる新たなルールを検討している。具体的には90分までの遅延でチケットの半額、90分から120分の間で75%が返金されるなどだ。このルールは2020年から有効になるよう、ひとまず案が出ている段階だ。現在ドイツ鉄道では90分までの遅延は25%、90分から120分まで間で50%の返金となっている。ドイツ鉄道にしてみれば不愉快だろうが、このような外圧は取りあえず歓迎したい。
また、ドイツ鉄道は今日のニュースによると遠距離列車部門のトップを入れ替えたことを発表した。これは前任者が自発的に辞めて会社を去ったからだ。どういう経緯でそのような決断に及んだのかは知らないが、白旗をあげたのではないか。
ドイツ鉄道の遅延に関してはこのブログでも何度も取り上げている通り、遥か昔から問題になっているが、長いスパンで見れば全く改善されていないどころか、益々悪化している。問題はそもそも何が問題なのか把握出来ていない事だろう。技術的、経済的、人間的な要素などが複雑に絡んだ構造的な問題である事を窺わせる。