長期間続いたドイツの好景気も終焉に近づきつつある

ドイツは2009年のリーマンショック以降継続的に景気の良い状態が続いており、とりわけ昨年は2,2%、一昨年は1,9%の経済成長を記録している。その数字の通り、体感から言えばここ数年で人も物も異常に増えた。基本的に堅実で用心深いドイツ人はこの好景気もいつかは終わると言いながら、結局10年近くも好景気の状態が続いている。

Zeit onlineのグラフを見ると、この好景気は既に36四半期も続いている。1970年以降最長の好景気は37四半期続いたそうだが、もはやそれに匹敵する長さだ。そして様々な危険因子がありながらも、この状況は今年も継続すると見られていた。

しかし、先週の水曜日の発表によると、ドイツ経済は今年の第3四半期におよそ3年ぶりに0,2%のマイナス成長を記録した。もちろん本来なら、この程度のマイナスで大騒ぎすることはない。一時的に落ち込むことぐらい普通にあり得る。それに加えて、このマイナス成長には明らかな理由が存在すると言われていた。

それは、ドイツの車メーカーが9月から施行される新たな排ガス規制であるWLTPへの対応が遅れており、大量の認可待ちの新車を抱えている事によるものだ。フォルクスワーゲンなどはこの為に長年工事中であるベルリン新空港に8000台の未認可新車を一時的に停めて物議を醸した。

これらの新車は当然WLTPに認可され次第予定通り配送されることになるので、これは普通に考えればただ単に販売時期が後ろにずれ込んだだけだ。つまり、この落ち込みは次の四半期で自動的に取り戻されるもので、車業界に限定されるの単なる一時的な問題だと見られていた。

しかし、ここ最近のニュースを聞く限り、次の四半期の見通しも決して明るくはない。ドイツで短期的な景気先行きを占う上で重視されている2つの指標がある。一つはIfo景況感指数、もう一つはEinkaufsmanagerindex(ドイツ版PMI、購買担当者景気指数)である。両者の数値ともここ最近は明らかに右肩下がりになっている。つまり、多くの企業は今年の年末に向けて生産、購買のペースが落ちると腹積もりでいる。

また、先に挙げた車業界の問題が仮に無かったものとしても、ドイツの第三四半期は0,1%しか成長していないとされる。私自身の体感から言っても、確かに今年に入ってから少し人の流れ、物の流れ、何れにしてもやや落ち着いた。直ぐに不景気に陥ることは無いにしても、おそらくこの長期間続いた好景気のピークは既に過ぎている。ドイツの今年の経済成長率も当初の1,8%から下方修正されて1,6%程度、来年は1,5%程度に落ち着くと現時点では見られている。

個人的には、そろそろこの空前の好景気が頭打ちになり、通常の状態に戻りつつあることは肯定的に受け止めている。確かに景気が異常に良かったことで、庶民の所得もある程度は増えただろう。しかしそれ以上に、日常におけるストレスは圧倒的に増大したからだ。何処へ行っても人ゴミだらけで、道路の渋滞、電車、飛行機などのインフラもパンク寸前になった。都市部の不動産価格の異常な高騰などは、金持ちがより金持ちになり、庶民がその割を食っている典型的な例だろう。

ドイツは依然として失業率は記録的な低さであり、国家財政はここ何年も黒字の状態が続いている。現時点では決して状況は悪くはない。しかし、周りを見渡せばBrexitや貿易戦争、ディーゼル問題など不安要素が満載だ。とりわけ、貿易摩擦による中国の景気が悪いことはドイツに大きな影響をもたらす可能性がある。更にここ最近再び不穏な情勢になっているウクライナとロシアの関係も大きな不安要素だ。何かのきっかけでリーマンショックみたいな大穴が開かないことだけを祈っている。