フェドカップでナチス時代の国歌が斉唱され、ドイツ選手が激怒する

先週テニスのフェドカップの試合前の国歌斉唱時に、歌手が過ってナチス時代の歌詞でドイツ国歌を歌うというハプニングが起きて、その場に居合わせたドイツ人を驚愕させた。このニュースは既に日本で報じられているようなので知っている人も多いかもしれない。そして、現在この歌詞で歌うことがどれ程ドイツ人の逆鱗に触れるかは国歌斉唱の後テニスの試合を行なった、ドイツ人選手アンドレア・ペトコビッチのコメントを聞けばわかる。

Das war eine absolute Unverschämtheit und Frechheit, das absolut Allerletzte. Es war das mit Abstand Schlimmste, was mir im Leben, aber speziell im Fed Cup passiert ist. 

これは絶対的に恥知らず礼儀を欠いたもので、絶対的に最悪な行為だ。これは私の人生の中でもダントツで最も酷い事であり、しかし、それがよりによってフェドカップで起こってしまった。

さらにドイツチームの代表である、バーバラ・リッターのコメント

Das ist echt ein Skandal und unentschuldbar, eine respektlose Nummer. Ich hätte heulen können, denn es ist im Fed Cup immer ein heiliger Moment, ein Gänsehaut-Moment, die Hymne zu hören”

これはまさにスキャンダルで言い訳の余地のない、完全に敬意を欠いた行為だ。私は泣き叫びたい気持ちだった、何故ならフェドカップで国歌を聞くのは神聖で鳥肌の立つ瞬間だからだ。

ペトコビッチはこの後言い過ぎたと思ったのかややこの発言を軟化させたが、ドイツ人がナチスにどれ程のアレルギーを持っているか象徴しているコメントとも言えるであろう。おそらく主催者側は悪気があった訳ではないと思うが、この種の間違いはドイツでは絶望的なものである事を再確認した。

この曲自体は”Deutschlandlied”=「ドイツの歌」と呼ばれ、1番から3番まであるが、現在では3番の歌詞のみがドイツ国歌として制定されている。フェド・カップで歌われたのは1番であり、そして問題とされるそのナチス時代の国歌の歌詞とは以下の様な内容である。(日本語訳はウィキペディアから引用)

Deutschland, Deutschland über alles, Über alles in der Welt, Wenn es stets zu Schutz und Trutze Brüderlich zusammenhält, Von der Maas bis an die Memel, Von der Etsch bis an den Belt -Deutschland, Deutschland über alles, Über alles in der Welt

ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ、この世のすべてのものの上にあれ、護るにあたりて、兄弟のような団結があるならば、マース川からメーメル川まで、エチュ川からベルト海峡まで、ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ、この世のすべてのものの上にあれ 

しかし、言っておきたいのは、現在この歌詞で歌うこと自体は決して禁止などされていない。何故ならこの歌詞もいわゆる芸術の自由として法的に守られているからである。現在ルール上問題なのはこの歌詞で歌ってもドイツの国歌ではないということだ。

もともとこの歌詞が書かれたのは1841年であり、その当時ドイツは統一した国歌としては存在しておらず、幾つもの領邦国家が点在した状態になっていた。これを克服してドイツとしての統一国家の誕生を願って書かれた歌詞ということでその解釈は定着している。

“Deutschland, Deutschland über alles, Über alles in der Welt”と言うフレーズはそれだけを聞けば多くの解釈の余地があると思うが、時代背景やこれに続く3番の歌詞が”Einigkeit, Recht und Freiheit …”=「統一、権利と自由…」とある事から考えても、「全ての困難を乗り越えて国としての統一とドイツを創る」或いは「全ての民主主義的な要素の上に統一ドイツを創る」という意味合いだと想像できる。

“zu Schutz und Trutze brüderlich zusammenhält”  とあるが、これは他でもない「兄弟のように団結して国を守る」という意味である。何をどう考えても攻撃的な意味など無い。

“Von der Maas bis an die Memel, Von der Etsch bis an den Belt”=「マース川からメーメル川まで、エチュ川からベルト海峡まで」とは現在で言うと、東はリトアニア、西はベルギー、南は北部イタリア、北はデンマークの一部を含んでおり、当時のドイツ語、ドイツ文化圏と言える地域である。

しかし、ナチスはこの歌詞、特に”Deuschland, Deutschland über alles in der Welt” =「ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ」を自分たちの侵略主義、他民族に対する優越の主張に都合の良いように解釈した。そしてこれを国歌とし、現在では禁止されているナチスの党歌である “Horst-Wessel-Lied”=「ホルスト・ヴェッセルの歌」とセットにして歌うことに制定した。これが現在ナチス時代の侵略の歴史を想起するとして忌み嫌われ問題視される訳である。

そう言う訳で、この1番の歌詞は正しく解釈すればそれ自体に問題がある訳ではない。別に歌ったところで警察に捕まったりはしない。しかし、第二次世界大戦が終わってから未だ70年ちょっとしか経っていないのだから、この1番の歌詞に実際に強烈な拒否反応を持つ人々が世界中には多くいる。正しい知識を持つ事も大事であるが、他人の神経を逆なでするような行為を進んでするべきではないだろう。

ましてや、誤った知識に基づき国や民族単位でのそのような逆撫で行為を平気でする人間がここ数年幅を利かせているのは非常に懸念される。また、とりわけナチスの件に関して言えば、悪気がなくてもそれを肯定するような発言は少なくともドイツでは人間として最低の評価を下される事は自覚しておいた方が良いと言っておこう。

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