人気だったディーゼル車が大都市から排除されつつある

ドイツでは日本と異なりディーゼル車がかなり普及している。その割合はここ数年増え続けており、去年は初めてディーゼル車がガソリン車よりも多く売れたそうだ。なぜこれほどドイツでディーゼル車が人気があるかというと、その走行コストの安さであろう。

一般的にドイツでは長距離運転をするドライバーが多く、その場合、ガソリン車よりもディーゼル車の方が安くつく。長距離運転の場合の燃費が良いだけでなく、ディーゼルは税制上の理由から常にガソリンより圧倒的に安い。ディーゼルが特に窒素酸化物の排出により環境に良くない事はよく知れた事実だが、自動車メーカーもクリーンディーゼルと銘打って環境によく高性能のディーゼルの開発に力を入れていたのもあるだろう。

しかし、その流れが変わったのが例のフォルクスワーゲン(VW)のディーゼル不正スキャンダルである。これまでクリーンだと思われていたディーゼルは実は真っ黒だったことが判明して、世の中のトレンドはあっという間に変わりつつある。これ迄先進的で燃費の良いと思われていたディーゼル車のイメージは劇的に悪くなり、大都市から排除されつつある。大都市の大気汚染は元々問題になっており解決を迫られてたとは言え、ここ最近のディーゼル排除の動きはやたら急な印象を持たざるを得ない。

そのまず先駆的な例となるのがシュトゥットガルトで、来年より基準を満たさないディーゼル車を街から排除することが決定された。比較的新しいタイプのディーゼルはセーフの可能性もあるが、大部分はアウトらしい。他にもディーゼル車の排除を検討されている問題都市はいくつもあり、その中には私の住むミュンヘンも含まれる。何故シュトゥットガルトが他都市に先駆けてこのような措置をとったかというと、シュトゥットガルトがあるバーデン・ヴュルテンベルク州が環境主義を標榜する緑の党がここでは最大勢力の与党だからだ。

しかし、ドイツの車の半分を占めるといわれるディーゼル車がいきなり大都市圏から締め出されるとなると、当然のことながら一般的に社会の不便度は劇的に上がる。私のように郊外に住んでいる人間はまだしも、普通に考えれば市街に住んでいる人はディーゼル車ならば自宅の前に車を停めることがことができなくなるのだ。

だからと言ってその車を売ろうにもディーゼル車は当然のごとく値崩れが始まっており、現在の時点で10-20%も市場で安くなっていると見られている。そもそも世の中に見切りをつけられ始めたディーゼル車を誰が買うだろうか。いずれにせよディーゼル車の所有者はこのままだと経済的にも莫大な不利益を被ることは間違いない。しかし、悪いのは彼らではない。変な小細工を弄してユーザーを騙した自動車メーカーであり、それをここまで放っておくどころか、わざわざディーゼルを税制上安くして普及させようとした政府だろう。

それを手のひら返しでいきなりディーゼル車をまとめて大気汚染の主犯格として扱い、街から締め出すとは私から言わせればまるっきり現実を無視したアンフェアな解決方法だ。ユーザーが被るであろう莫大な不利益やコストを少しでも抑えられるような代替案ぐらい出すのは最低限必要だろう。大体、大気汚染の原因は車だけではない。そのうえ、小型で排ガス量も少ないディーゼル車がアウトな一方で、新型でもやたらデカくて排気量の多い車がセーフだったりしてその基準も相当怪しい。要するにこのディーゼル締め出しはどれ程効果があるかどうかもわからない。

幸いな事にミュンヘンはシュトゥットガルトのように早急なディーゼル車の排除には踏み切っていないが、確かドイツ政府は2030年までにディーゼル車だけでなく、ガソリン車も禁止にする旨を公にしているので、近い将来ディーゼル車が排除されていくのは必然だ。しかし、庶民の立場から言わせればそれでクソ高い電気自動車を買わされるのは御免である。自動車メーカーと政府は環境保護と庶民の経済性や生活レベルを両立させる解決方法くらい見つける責任はあるだろう。