現在のドイツ社会の問題を象徴している”Pendler”の増加

ドイツ語の“Pendler“ (ペンドラー)とは職場と自宅が別々の市町村にあり通勤する人のことを指す。埼玉から東京に通勤するような人のことだ。最近のニュースによるとドイツ全体でこの“Pendler“の割合が昨年およそ60%に達し過去最高を記録した。

その中でもトップはミュンヘンで355,000人が別の市町村から仕事に通っている。これは2000年から比較して21%の増加だ。ベルリンは数こそ274,000人だが、同じ期間で53%も増加した。まあ日本の大都市圏で仕事をしている方々はそんなのは普通だと思われるかもしれない。私は日本の大都市圏に住んだ事がないので詳しくは知らないが、おそらく日本の場合は電車で通勤する事になるのだろう。

一方ドイツの場合は多くの人が車で通勤するので、Pendlerの増加はつまり渋滞の増加を意味する事になる。日本の満員電車のすし詰め状態も大変だろうと思うが、この酷くなる一方の渋滞も当然体力を消耗する上に精神衛生上悪い。当然イライラするから交通事故も増える。

では電車で通勤しようにも忙しい朝に20分に1本しか来ないようなSバーン(近距離鉄道)なんか使えない。そもそもSバーンの駅の近くに住めるラッキーな人間がどれ程いるのだろう。そんな事をすれば余計に時間がかかるし、疲労する。

その上これは環境にも悪い。ドイツ人はエコロジーに敏感だと言われるが、市外からの車通勤が増えれば当然空気はどんどん悪くなる。しかもクリーンだと思い込んでいたディーゼルは知っての通り真っ黒なインチキだったから、 状況は想定外に悪いと言える。それが判明したから今度は手の平返しで都市部からディーゼルを排除しようとしているのだ。本当に悪い冗談だろう。あと言い忘れたが、Pendlerの数も増加しただけでなく、その平均の通勤距離も増加した。

このような馬鹿げた状況になる原因は幾つかあるだろうが、最もわかりやすいのは市内の住居が不足し高騰している事だろう。ミュンヘンなどその際たる例だ。景気が良いものだから新しい仕事はどんどん増えており人はわんさか他所からやってくるが、如何せん住む所がないものだから周辺の田舎に車を所有して住むしかない。

確かに車は車で高くつくが、それでも貧弱な市外の公共交通機関よりは遥かに役に立つ。更にPendlerはその通勤距離に応じて税金の一部を免除されるようになっているから増えるのも当然だろう。

当然このような状態は以前から問題視されていたので、最近は至る所で住居が建築されており、ミュンヘンは遂に大金を投じてSバーンの第2幹線を造る工事を開始した。しかしこれが完成するのは2026年の予定であり、そしてこういうのは予定通り進まないからどうせ完成は遅くなる。何れにせよ状況は直ぐには変わらない事は明らかだ。

景気が良いとか言って浮かれるどころか、生活におけるストレスはここ数年で激増した感がある。Pendlerの数が過去最高を記録しているのはまさにそれを象徴しているだろう。