以前、ディスカウントストアのアルディ(Aldi)について記事を書いた事がある。このアルディをはじめとしたドイツのディスカウントストアで販売されているものは食料品をはじめとしてとにかく安いのである。その売り上げ高は小売店として世界8位だ。
そのアルディの2週間ほど前のセールス品は味付けステーキ用豚肉だった。その値段はなんと600gで1,99ユーロだ。私はそれを買っていないが、味付けとは言えステーキ用の肉にしては相当安い。しかし、このあまりにも安い価格に、とある消費者がソーシャルメディアでこのアルディの価格設定を猛烈に批判した。
その批判の内容はと言うと、この常識外れに安い価格は生産過程で誰かを虐げ、搾取していないとないと不可能なものであり、特に動物がコストダウンの為に不当な環境で飼育あるいは屠殺されているに違いないと言うものである。
文中には”billigster Dreck”=「最も価値のないクソ」とか “zum Kotzen” =「吐き気のする」, といった罵りの言葉を使い、この消費者はかなり辛辣にアルディをこき下ろした。この投稿は大きな反響を呼び、約19000回シェアされ、4000個以上のコメントが書き込まれた。多くはこの意見に賛同するものだ。
アルディは当然これを否定し、安い価格は自社の効率のよい仕入れや流通のシステムによるものだと主張している。確かにこれは嘘ではないだろう。そうでなければアルディはこれ程成功していないだろうし、何も私はアルディが食えないような肉を売っているとは思っていない。アルディは常にどんなに安くても大衆が最低限受け入れられるレベルの品質のものを販売するからだ。
しかしそれでも、600グラムのステーキ肉が1,99ユーロは安すぎる。安すぎて買いたくないレベルである。とりわけ、この肉がフェアな生産、流通過程を経て販売されているかははっきり言って私も疑問を持ってしまう。だいたい、この投稿者も書いていたが、流通や人件費、包装やその他もろもろのコストを考えれば、この肉に価値は無いも同然に思える。安ければ消費者の味方なんて言うが、安いにも限度があるだろう。
そして周りの他の小売店を見ても状況は似たりよったりだ。アルディ程ではないが肉の価格は相当安い。おそらく、ディスカウントストアの1位であるアルディが余りにも安くするから、他の小売店も追随せざるを得ないのだろう。事実、過去25年間の間に食用の豚の在庫は50%増え、供給過多になっているとのことだ。そして、豚の頭数が増えるという事は、それだけ一頭の飼育にかける時間や手間暇が減る事を意味するので、実際豚の飼育環境はどんどん劣悪になっているらしい。
本来ならば、金を稼ぐのと同様、商品もフェアな条件で生産し、流通させなければならない。昔どこかのアパレル系ディスカウントストアが販売している服が中国の刑務所で製造されていると物議を醸した事がある。このように常識から著しく逸脱して安いものには大抵それなりの理由があるだろう。
アルディの場合は実際どうなのかは知らないが、今回の投稿者曰く400gの缶に入った犬のエサでさえ2,40ユーロするらしい。つまり、このアルディのステーキ肉は犬のエサよりも安い。私は犬を飼っていないのでそれが本当かどうかはしらないが、もしもそうならば確かに世の中何かが間違っていると思わざるを得ないだろう。