土曜日CLの決勝戦が行われ、レアル・マドリーがユヴェントスを4-1で下し、史上初のCL2連覇を達成した。この試合に関して言えば私はどちらが勝っても構わなかったのだが、個人的にトニ・クロースのプレーに注目して観戦した。クロースはここ最近メディアから絶賛の嵐であり、もはや中盤の選手として世界最高の評価を受けるに至っている。
この試合もクロースは前半こそ相手の厳しいチェックにやや苦しんだものの、先制点の起点となり、終わってみれば89回のボールタッチ、67回のパスのうち92%を成功させ、1対1で62%の勝率を記録した。代表での役割と同様、回転の早い頭で攻撃の起点となり、チームのテンポをコントロールする。まさにチームの頭脳と言って良い存在であろう。
クロースはもともと若い頃からその将来を嘱望された選手であり、その期待に違うことなく成長した稀な選手だと言って良いだろう。若い頃はトップ下で起用されることが多かった。当時からそのキックの精度とパスセンスはずば抜けていたが、ポジションもプレーエリアも中央に限定されるタイプであり、やや下がり目の位置にしても守備力に難があったので、猛者揃いのバイエルンやドイツ代表で主力ながらも、ややひ弱さも感じられ、むしろ私の中ではやや過大評価されている感のある選手だった。
しかし、私の中でクロースの評価が著しく上がったのが2014年のブラジルW杯だ。この大会を通じてクロースはドイツ代表での絶対的な司令塔の地位を確立した。中盤やや下がり目の位置からのその正確無比なキックは誰が見てもずば抜けており、更にこれ迄にない守備力と献身性を見せてくれた。
そしてこの年レアル・マドリーに移籍して以降、クロースのポジションは中盤下がり目のやや左に定着し、攻守両面でに欠かせない存在となった。圧巻は今年のCL 準決勝第1戦、アトレティコ・マドリー戦で、123回のボールタッチ、パス成功率96%、1対1の勝率は86%という圧巻の数値を記録している。この試合、レアルはアトレティコを3-0で下し、監督のジダンは自身が監督になってから最高の試合だったと述べた。土曜日の試合を見てもわかるとおり、クロースのプレーはチーム全体の出来に直接的に大きな影響がある。
インタビューでクロースは、自身が元々冷静で落ち着いた性格であるとした上で「ピッチの上で起こる事は全て経験済みだから、慌てる必要など全くない」と述べている。実際クロースのプレーを見るとどんな状況でも落ち着き払っており、殆どミスをする事がない。更にクロースが評価されるのは、試合におけるそのプレーの効果である。ドイツで去年あたりから出てきた新しい統計である”Packing”では、サッカーにおけるアクションで何人の相手選手を無力化させるという事が数値化される。ここでもクロースはドイツ代表でダントツで最高の数値を出している。つまり、クロースは主にそのパスで何人もの相手選手を抜き去る事に成功し、相手守備陣を無力化していると言える。
そして、もう一つクロースについて特筆すべき点は、怪我が著しく少ない点であろう。これは身体の強さや柔軟さ、技術の高さに加え、予測力などのインテリジェンスによるところも大きいだろう。クロースは何れの試合でも徹底マークされる存在ながら、ここ数年負傷によって試合を欠場することは皆無である。これは驚異的と言って良い。
土曜日の決勝戦に勝利したことでクロースは27歳にしてすでに3度CLを制し、代表でもW杯を制した。これはドイツの歴代の伝説的な選手と実績では肩を並べるものだ。そして、その実績だけでなく、実力からいっても現在のドイツNo1プレイヤーはクロースで間違いない。ポジションが違うのに他選手と比較などできないというかもしれないが、現在クロースほどチームと試合に大きな影響を与えられる選手はいないだろう。