ミュンヘンの住宅事情は年々庶民にとって厳しさを増しており、住居探しは困難を極める。政府が賃貸住居の価格上昇を抑えるために実施した”Mietpreisbremse”=「賃貸価格ブレーキ」と呼ばれる政策もどうやら焼け石に水で、住居価格の上昇はとどまるところを知らない。私も住居探しは本当に嫌だ。入居に至るまでのストレスが半端ないからだ。
ところが、意外な裏技を使用している若者がいる事を新聞で読んだ。この若者はミュンヘンで住居が見つからないので、ICEの1等席の乗り放題チケットを所持し、ICEを住居がわりに毎日利用しているのである。このチケットはBahncard100と呼ばれ、1等席の価格は月658ユーロだ。
もともとこの若者はザールブリュッケン州にあるコールセンターのマネージャーをしており、かなりの高給取りだったそうだ。しかし、ストレスも大きく、虚ろな毎日から逃避すべくBahncard100を買い、自らの住居の代わりにICEでドイツの周遊を始めたのが始まりだったようだ。彼はそうこうするうちにミュンヘンで新しい仕事を見つけたものの、手取りは1200ユーロである。そこで再びミュンヘンで普通の住居に住むべく家を探すことにした。
しかし、月1200ユーロの手取りなら、普通なら家賃に出費できるのは多くて半分の600ユーロ程度だろう。残念ながら、現在のミュンヘンにその価格で借りれる住居は多くない。無くはないが、競争率が高すぎて入居は非常に難しいと思われる。この若者も応募しても見学にさえ呼ばれることがないそうだ。
そして、このICEの1等席の乗り放題チケットの価格658ユーロは、どう考えてもミュンヘン市内の1ルームマンションの賃貸価格より安い。ネットで調べる限り、市内であれば殆どの住居が諸費用込みで1000ユーロ近く、或いはそれを超える。
そう言う訳で、ミュンヘンで住居を見つける事が出来ないこの若者は、現在でもICEを住居がわりにドイツ全土を周遊しながらミュンヘンで仕事をしている。1等席用のBahncard100を持っていれば、大都市の駅内にあるDBラウンジと呼ばれるところで無料で飲み物やスナックを得ることができる。駅のWCセンターで7ユーロ払ってシャワーを浴び、2週間に1度ザールブリュッケンの父親の元に帰り、洗濯物を洗うそうだ。
しかし、こんな話を読むと、つくづくミュンヘンの住居事情は普通の状態ではないと実感する。低所得者がミュンヘンで住居を見つけるのはもはや困難なのは想像に難くない。にも関わらず、住居価格はこれ以上ないペースで上昇を続けている。金持ちがいるのは構わないが、完全に行き過ぎだ。普通に住むところくらい皆が持てるような世の中であるべきだろう。