名将カルロ・アンチェロッティがFCバイエルンで失敗した理由

昨日FCバイエルンの監督であるカルロ・アンチェロッティが解任された。FCバイエルンのサッカー内容が去年から劣化していたのは誰の目から見ても明らかだったので遅かれ早かれこうなる事は予想できたが、ここまでの急展開は誰も予想していなかっただろう。それだけ現在のチーム内の雰囲気も悪く、この間のPSG戦が酷かったという事だ。

ひとまずアシスタントだったウィリー・サニョルが暫定監督として当面は指揮をとるそうだが、これは一時的な措置とみられており、現在は後任監督が誰になるかという話題で持ちきりである。しかし、ファンとしてまず世界屈指の名将と呼ばれるアンチェロッティがなぜFCバイエルンで失敗したか考察してみるとする。

まず決定的な理由はオーナーであるウリ・へーネスがはっきりと述べていた。チームの主力となるべき5人もの選手が不満分子化してしまった事だろう。この5人の重要な選手は誰だか知らないが、既に思わず不満を漏らしたミュラー、不調でもないのにベンチに座らせれているフンメルス、露骨に反抗的な態度を示したリベリー、去年あたりから口が達者なレヴァンドフスキ、元々ワガママそうなロッベン、PSG戦でスタンド観戦となったボアテングなど、誰であってもおかしくないと思える。

特にミュラーはFCバイエルンの顔となるべき「非売品」の選手であり、彼をベンチに干してしまった事は政治的なテーマと化してしまった。それで更に結果が出ないとなるとアンチェロッティをいつか切らざる得ない状況になる事は容易に想像できる。このミュラーを敵に回してしまった事は決定的だろう。

そして、この世界屈指の組織プレーヤーであるミュラーを使いこなせなかった事からも推察されるが、アンチェロッティは名将と言うには驚くほど戦術的なバリエーションが少なかった。本来FCバイエルンは強力な個人プレーヤーよりも、組織内の連携を駆使した総合力で強さを発揮してきたチームだった。

しかし、アンチェロッティが就任して以降個人能力を全面に押し出したサッカーに退化したと言える。ドイツではそれで勝てても、CLで勝つのは難しいのは誰の目から見ても明らかだった。去年はまだ初年という事で大目にみれたが、今年改善されるどころか更に退化したことは残念という他ない。まあ、前任者のグァルディオラが余りにも戦術狂だったので、ファンとしてはそのギャップも大きかった。

更にアンチェロッティにとって不運だったのは、ラームとアロンソと言うチームの主力が昨年引退し、チームも過渡期に差し掛かりつつあった事だろう。特にラームの引退は誰がどう見ても大きい。居なくなってよく分かるが、ラームは唯の右サイドバックではなかった。

滅多にファウルをしないクレバーな守備に、中盤のビルドアップにも参加し、ワンツーやドリブル突破を駆使した崩しや、高低長短を織り交ぜたクロスなど、まるで打ち出の小づちみたいに解決方法を出してくれた。キミッヒが悪いとは言わないが、PSG戦でひたすらクロスを上げ続ける他ないその姿をみると、ラームとは雲泥の差があると言わざるを得ない。

しかし、昨年誰よりもチームの事を理解していたラームは今年このような状況になる事をある程度予期して引退したのではないか。今年チームが火の車になりキャプテンとしてメディアや世間からボコボコにされて引退するよりは、程々に良いところで身を引いた方が良い言う計算のもとの行動だと私は推測する。現役時代の振る舞いといい、つくづく賢いなと思ってしまう。

まあそれは私の邪推だが、アンチェロッティの解任は遅かれ早かれ必然だった。後任には前ドルトムント監督のトゥヘル、現ホッフェンハイム監督のナーゲルスマン、前バルセロナ監督のルイス・エンリケ、現リバプール監督のクロップ、現ドイツ代表の監督レーヴなどが挙げられている。

状況から言えば現在フリーのトゥヘルが有力と言われているが、こちらもドルトムントで人心掌握に失敗しており、その経験の消化もまだ出来ていないと思われるので、ファンとしてはやや納得しかねる。個人的には、まああり得ないと思うが、マテウス、バラック、エッフェンブルク、カーンなど、能力を度外視した100%話題性だけの意表をついたひと癖もふた癖もある人選の方が面白いと思っている。