ただ安いだけのイメージから脱却して、シェアを回復しつつあるアルディ

ここ数年以来ドイツの都市部の不動産価格が高騰している事は、私のような庶民がドイツで生活する上で非常に深刻な問題である事をこれまでに書いた事がある。しかし、その一方でドイツは食料品の価格が異常に安い事は忘れてはなるまい。

そして、なぜドイツの食料品価格が安いかというと、アルディ、リードルをはじめとしたディスカウントストアがその極限まで無駄を省いた経営モデルにより、異常な低価格で品物を販売している事にあると言われている。これにより通常のスーパーマーケットも激安の自社ブランドを作るなどして対抗せざるを得ない。人々が食料品に対してケチだと言われるドイツにおいて、この業界は非常に熾烈な闘いが繰り広げられている。

しかし、ひたすら安さをウリにしてきたアルディ、リードルもここ数年シェアを落としつつあった。これはドイツ人がここ数年の経済状況の良さから食料品に対し安さよりも品質を求めるようになり、高い商品にもお金を使うようになったからだ。また、世の中のグローバル化で外国の珍しい食料品が手に入るようになったのもあるだろう。

そういう訳で品揃えが少なく、庶民的なレベルの品質を大量に提供しているディスカウントストアがシェアを落としているのは必然と言え、彼らは自分たちの地位を回復させるべく改革を迫られていた。これだけ景気が良く周りが儲かっている中で、自分たちがこのまま負け組になる訳にはいかない。

そしてその中でもアルディは昨年あたりから大幅な店舗改装に踏み切った。具体的には店舗全体が明るくなり、木組みのデザイン、広めの通路、ビストロ、トイレの設置などだ。少なくともこれで見た目の印象は随分変わった。あの無機質で人間味や温かみのない店舗とは決別し、通常のスーパーマーケットと変わらない印象になった。しかし、この店舗改装にアルディは当然大量の金を投資した一方で品揃えや価格は殆ど変わっていない。

それでも、この店舗改装が功を奏したのか、今年に入りアルディは再び大幅な売上の増加を記録している。アルディのような安さをウリにした小売店が見た目だけ変えて何になると思った人間も多かった筈だが、やはり外見や心地よさ、イメージの良さはたとえそれが一時的なショッピングの体験だけでも重要である事が窺える。

特にアルディは安いイメージばかりが先行し、先入観だけで粗悪品ばかりだと思われがちだった。同じ品物でも昔のアルディのようにダンボールから取り出した品物と、綺麗で自然感のある陳列から取り出したものでは印象が全く違う。またビストロやトイレの設置で若干であるが買い物にスローライフの雰囲気が出てきた。

アルディは引き続き低価格でベーシックな品物を販売するというマーケットでの基本ポジションを変える事なく、店のイメージを劇的に改善させる事でシェアを回復する事に成功している。

最近の世の中のトレンドは移り変わりが激しく、かつて栄華を誇った大企業が苦境に陥っているという話を良く聞くが、この一度大きくなった会社を安定して経営していくには如何ばかりの大きく難しい決断を下さなければならないのか、私には想像もつかない。ここ最近のトレンドと大衆、人間心理を上手くついたアルディは非常にクレバーに問題を解決したように見える。とは言え、アルディの新しいコンセプトが長期的に成功するかどうかは今暫く様子を見る必要があるかもしれない。

因みに、私が言うアルディはAldi Südで、その名前の通り南ドイツに店舗を展開しており、北ドイツはAldi Nordである。両者は厳密には別々の会社であり、若干であるが広告の品や、そのコンセプトに差異が存在している。既に店舗改装をしたのはSüdのほうであるが、Nordも50億ユーロを投資して店舗改装に乗り出す事になっている。