昨日はロシアW杯予選のドイツ対北アイルランドの試合を観戦した。このアウェー戦に勝つか引き分ければ、ドイツは17大会連続19回目のW杯の出場が決定する。とは言え、ドイツはここまで予選を全勝で来ており遅かれ早かれ決定するのは分かりきっている。注目するのは監督のレーヴがどのような布陣及び戦術でこの試合に臨むかという点だ。
北アイルランドは強固な守備でこの予選ではドイツに次いで2位につけており、本戦でも十分対戦しうるレベルの相手である。
そしてドイツは この試合は慣れ親しんだ4ー2ー3ー1のシステムで、中盤の底にクロースとルディという2人の司令塔を置き、FWにはレーヴにしては珍しくタワー型のワーグナーを起用した。中央を固められるので、サイドからのクロスが多くなる事を考慮しての起用だろう。また、スタメンのうちの5人(ボアテング、フンメルス、キミッヒ、ルディ、ミュラー)が現在不調のFCバイエルンの選手で構成された。
試合はいきなり開始2分でルディが目の覚めるようなミドルシュートをぶち込み、ひたすら守備を固めてカウンターを目論んでいたと思われる北アイルランドの出鼻を挫く事に成功した。この後もドイツは試合をコントロールし、特に右サイドのキミッヒから良いクロスが入り、何度か決定的なチャンスを得る。
攻め続けるドイツはゴール正面でワーグナーがグラウンダーのパスを足元に受けると、意表をついて振り向きざまにミドルシュートを決めてリードを広げた。前半終わりに一度ピンチを迎えたものの理想的な展開で前半を終えた。
後半になると、北アイルランドが攻め込む場面が増えて来た。ドイツに一泡吹かせようと前線から激しいプレッシャーをかけてドイツのミスを誘おうと試みる。しかし、CBのボアテング、フンメルス、GKテア・シュテーゲンの足元の技術は高く、何度か危ない場面はあったものの、殆どの場面は北アイルランドのプレスをいなして切り抜けた。
ドイツは攻め込む場面こそ前半に比べて減ったもののリスクを冒さず堅実に試合を進め、最終的に3ー1で勝利した。北アイルランドは敗れたものの最後にドイツからゴールを奪い、観衆は大喜びだ。
全体的に見ればドイツは完璧ではなかったが、守備を固めた相手から効率良く点を奪う事に成功し、ドイツらしい堅実な試合展開で勝利したという印象だ。引いて中央を固めた相手に対し、中盤の選手の素早いパス回しからある程度相手の陣形を崩し、最後は高い位置に張るサイドバックがクロスを入れてチャンスを生み出した。
これを可能にしたのは目立たなくとも豊富な運動量でスペースを突き続け相手を撹乱したミュラー、ドラクスラー、ゴレツカの2列目の選手だろう。FCバイエルンはこのドイツ代表の爪の垢でも煎じて飲めと言いたい。昨日は5人のFCバイエルンの選手が先発した。代表にできてバイエルンに出来ない事はない。
まあ、開始早々にルディの夢のようなミドルシュートが入った事はその後の展開を大いに楽にしたのもある。因みにこのルディは私は最近試合で良く見るようになった。ピッチの中央から殆ど動かず、スピードも無ければ、1対1も消極的、更にその色白の風貌とまるで幽霊みたいな存在だが、視野の広さと判断の速さと精度、パスセンス、キックの精度は非常に高い。猛者揃いのFCバイエルンで試合に出ているだけの事はある。
もう1人、今日FWで先発したサンドロ・ワーグナーはそのゴツい風貌からかフィジカル一辺倒のプレースタイルと思いきや、昨日は鮮やかなミドルシュートも決めた。中央で相手DFを引き付けながらも時折味方にスペースを作ったり、思ったよりも総合力が高い選手だという印象で、レーヴのサッカーにも対応できる事を見せてくれた。コンフェデ杯で完全に干されており、もはや忘れ去られる運命かと思ったが、似たタイプのマリオ・ゴメスを押しのけて本戦に呼ばれるチャンスは十分にあるだろう。
そして、今回ここまで予選を全勝で通過したドイツは本大会でも優勝候補の筆頭ではないか。フランス、ブラジルなど個人能力でドイツを上回るチームもあるが、それを補って余りあるチームとしての完成度がある。多くのタイトルを勝ち取った経験豊富で優秀な組織プレーヤーに競争心を植え付け、コンフェデ杯でチームの底上げに成功したレーヴの手腕はここまでは見事という他ないだろう。