現在ドイツは新たな連立政権の構築のための交渉が行われている。その中でおそらく最大の問題の一つが、CDUとCSUと言う姉妹政党が難民問題において対立している事であった。元々ホルスト・ゼーフォーファー率いるCSUは難民の受け入れ数に上限を設けるべきだと主張し、メルケル率いるCDUはこれを頑なに拒否してきた。
両党は本来ドイツ連邦議会では同一勢力とみなされており、一般には”Union”=「連合」と呼ばれている。新たな連立政権でもこのCDU/CSU連合がいわゆる、与党での最大勢力となる。しかし、この両党の仲間割れが総選挙でAfDという変な連中を躍進させた要因の一つである事は間違いない。
特にCSUは選挙前に仕方なくメルケルCDUにトーンを合わせた結果、保守層でAfDに大幅に票を持っていかれ、党首のゼーフォーファーの腹の虫が治まらなかった事は容易に想像できる。そう言う訳で、CSUはここに来て再び難民受け入れに上限を設けるべきだと鼻息を荒くしてCDUに迫った模様だ。
そしてその結果、CDUとCSUは難民の受け入れ数を基本的に年間20万人以内に抑える事に合意した。しかし、いかにも難民の受け入れを制限するという厳しい処置のように見せかけているが、年間20万という難民受け入れ数はあくまで目安であり、状況によってはそれ以上の数を受け入れ可能であり、仮に2015年のような爆発的な難民が発生した場合、例外的な対応も可能となっている。難民の申請数が落ち着いている現在、実際の状況はまったく変わらない。
つまり、取り合えずこれまでの難民政策に不満をもち、AfDに流れている支持を取り戻すための政治的アピールの側面が強いと理解され得る処置である。20万という数字に拘るゼーフォーファーCSUと”Obergrenze”=「上限」という言葉を使いたくないメルケルCDUの妥協した結果だ。
それどころか、一方でドイツは難民とは別に、専門的な知識をもった優秀な外国人を喉から手が出る程欲しがっている。このいわゆる”Fachkräftemangel”=「専門的労働力の不足」というのはもう何年も前から言われており、ドイツの経済力の持続性において大きなリスクだと見なされている。
特に数年前からドイツの経済は馬鹿みたいに景気が良くなり失業率は記録的な低さだ。つまり、どこの業界も猫の手も借りたいほど人手不足であり、好景気に沸く一方でいずれのポストも人材の質が落ちていると感じる。ドイツも日本と同じく少子高齢化に悩む国の一つであり、現在の経済成長を持続可能にする為にも既に優秀な外国人の受け入れに舵を切っている。
そういう訳で、CDUとCSUは新たに専門的な知識を持つ優秀な外国人がより簡単にドイツで就労できるような枠組みを作ることで合意しており、これはGrüneとFDPを加えた新たな連立政権において新たな法律として成立、施行されると思われる。トータルで見れば、難民の流入を抑えながらも外国人が社会、経済に占める割合というのは今後増えていくだろう。そして、これらの優秀な外国からの労働力を社会に適応させるという教育がこれまで以上に重要になることは言うまでもない。