ハロウィンの定着により、影が薄くなりつつあるマルティン・ルター

今週の10月31日は”Reformationstag”=「宗教改革記念日」で今年は例外的にドイツ全土が祝日となった。例年この日はプロテスタントが多いドイツの東北部の州のみが祝日なのであるが、今年はルターが95ヶ条の論題を発表して500周年と言う節目でドイツ全土の祝日となり、ドイツ各地でルターに纏わるイベントが催される事になっている。事実、このルターが今日のドイツに与えた影響は単にキリスト教と言う宗教面に留まらず、社会や言語文化など極めて広範囲に渡るものであると言われている。

このルターの功績については私がチンケな説明をするよりもネットで調べれば遥かに詳しく正確な情報が載っているだろう。ルターはキリスト教の分裂を招いたともされ、またその露骨な反ユダヤ人的な主張もあり、光と影を併せ持った人物だが、ドイツと言う国、ドイツ人を形成する上で計り知れないほど重要な役割を果たした人物である。

しかし、この本日10月31日には数年前からこのルターの「宗教改革記念日」を差し置いて大衆に定着しつつあるイベントがある。それは他でもないハロウィンだ。元々ドイツにハロウィンを祝う文化は無いが、約20年位前から広まってきているらしく、この日は若者が変装をしてパーティーをし、子供は変装をして近所の家に訪問し、お菓子を貰うというイベントが定着しつつある。

そして、この一部馬鹿騒ぎを伴うイベントは当然ルターを敬うプロテスタントの人間からすれば面白くない。ドイツのルター派の神学者であり、今年の宗教改革500周年イベントの大使であるマルゴート・ケスマンは、ハロウィンは単なる中身の無い商業主義の祭りだと非難している。

また、翌日の11月1日はAllerheiligen=「諸聖人の日」と呼ばれ、この日はカトリックが多数派を占める南部の州で祝日である。しかもこの日はカトリックの祝日でもとりわけ静かに過ごすべき日とされており、バイエルン州ではこの日の深夜2時から翌日に日付が変わるまで公で騒いではならない事になっている。

しかし、このハロウィンの規模は年々大きくなって来ている。なぜこの風習がドイツに受け入れられ定着しつつあるのか私は詳しくは知らないが、要はこのイベントが楽しく金が儲かる手段として認知されつつあるからだろう。

実際に、お菓子類の売り上げはクリスマスやイースターに次ぎ、コスチュームの売り上げもカーニバルに次ぐ程の規模になりつつあるそうだ。うちの子供も幼稚園でのハロウィンパーティの為に、ちょっとしたコスチュームをその為に買った。楽しそうだったのでその程度ならまだ微笑ましいし、別に私はアンチ・ハロウィンでは無い。金儲けが大事なのはどこも同じで、日本のクリスマスも似たようなものだろう。

とは言え、このルターと言う偉人を敬い宗教的で厳かになるべき祝日にわざわざ馬鹿騒ぎを伴うイベントは実にタイミングが悪い。私は日本人なので余計なお世話だろうが、今年は500年と言う節目でもあるし、ハロウィンも程々にして多くのドイツ人がルターの足跡に思いを馳せたと思いたい。良くも悪くもドイツがドイツである所以は、ルターに依るところが非常に大きい。その存在を軽視してはならないだろう。