メルケルに反旗を翻し、ドイツ政界を未曾有の混乱に陥れたクリスティアン・リンドナー

9月の総選挙の結果を受けて新たな連立政権を構築するべくCDU/CSU、Grüne、FDPによる交渉が行われていたが、この交渉が決裂に終わった。

確かに結構極端な環境主義を掲げるリベラルなGrüneと、最近右寄りで開放的、先進的な経済政策がウリのFDPが共同歩調を歩むのは困難が伴う事は予想できたが、両党とも所詮支持率10%程度の小規模政党である。メルケルの音頭の下、この両党が第1党であるCDU/CSU連合に妥協し、連立政権の話がまとまるというのが最も無難な落とし所だった。

そもそも、第2党であるSPDが政権入りを拒否し、AfDとLinkeという両翼の党はCDU/CSUと連立出来ない状況から言えば、実際このGrüneとFDPがメルケルの犬になって連立政権を組む以外に枠内での解決方法は無かったのだ。そう言うわけで最終的には誰もが出来レースでこの3党が連立を組む、いわゆるジャマイカ連立の成立を疑わなかった。

ところが、この交渉も大詰めを迎え成立も間近と思われた矢先に、交渉打ち切りを宣言したのがFDPのクリスティアン・リンドナーである。リンドナーは以前一度紹介したが、FDPをどん底から再び連邦議会入りへ押し上げた若手カリスマ政治家だ。その政治家としての才能と弁術の巧みさはドイツ政界でも屈指と言われており、連立政権の成立後に重要ポストに就くことが確実視されていた。

このリンドナーによるどんでん返しは誰もが予期していなかった衝撃を持って受けとめられ、ドイツの政治情勢は過去にないほどの不透明感に襲われている。これまでの経緯を踏まえるならば、ジャマイカ連立が失敗に終わった今、FDP抜きの過半数割れの不安定な政府を樹立させるか、あるいは再選挙という膨大なコストと労力のかかる解決しかない。とりわけ、この交渉を穏便にまとめて首相として権力に留まる筈だったメルケルの面目は丸つぶれで、彼女の政治生命で最大のピンチとさえ言われている。

そして、この出来レースをぶち壊し突然の大混乱をもたらしたリンドナーには、この後に及んで政権入りを拒否するのは無責任、メルケルを陥れる為に始めから仕組まれた芝居、協調性に欠けるなどの非難が相次いでいる。この間のZDFでのインタビューではジャーナリストのマリエタ・スロムカから矢継ぎ早の挑発的な質問責めに晒された。因みに、このマリエタ・スロムカは私の中では毎度その攻撃的な質問で有名で、これまでも何人もの政治家をブチ切れさせてきたのを見た。その攻撃性は日本で言う池上彰氏などの比ではない。

しかし、リンドナーはその挑発的な質問にも務めて冷静に、動揺する事なく交渉打ち切りに至った理由を説明した。連立政権交渉においてFDPの政策が余りにも軽視されており、自らの信念を曲げてまで政権入りする事は出来ないという事だ。どこまで本当か知らないが、そうだとしてもFDPという支持率10%の党首にしては余りにも強気で、無謀にも見える。現状ではリンドナーは完全な悪役だ。自らの政治家としての実力に相当な自信を持っていないと出来ない大きな賭けだろう。

今後ドイツの政局がどのように転ぶのか全く予断をさない状況であり、この混乱に乗じて更にAfDのような右派ポピュリズムが台頭するのではとの懸念もある。しかし、女帝メルケルを引きずり下ろすのは、AfDのようなチンケで他人の揚げ足を取って自己満足している連中ではなく、リンドナー率いるFDPである可能性は十分ある。今は悪役かもしれないが、この安定をぶち壊し、自らの信念を貫いて国を動かそうとする人物を多くの国民が支持をするのではないか。個人的にはこのリンドナーにはそれを可能にするカリスマ性と野心を感じさせると言っておく。