空飛ぶタクシー”Lilium Jet”の開発と実用化がミュンヘン近郊で進行しつつある

空を飛ぶ自動車の実用化などはるか先の未来だと思われていたが、もしかしたら10年以内には実用化されているかもしれない。ミュンヘン近郊ギルヒングのLilium Aviation社によって現在、Lilium Jetと呼ばれる電動飛行機の開発と実用化のプランが進行しつつある。

Lilium Jetは完全電動式でヘリコプターのように垂直に離陸、着陸が可能であり、飛行機の時速は最大300キロ、バッテリーは300キロの飛行距離を稼働することが可能とのことだ。テスト飛行は2017年の4月に既に成功した。

このLilium Jetについてまず特徴的なのは、形状は翼が機体と一体化して固定されており、そこには12個のフラップが付いている。そして、主にこのフラップでもって離着陸および飛行が可能なシンプルなシステムになっている。プロペラやギアボックスは必要ない。

そして、このフラップには各々3つの電動エンジンが設置してあり、このフラップが離陸の際には下を向き、下方にジェットを噴出し垂直に機体を持ち上げる。そして飛行高度まで達するとフラップがスムーズに平行となり後方にジェットを噴出し、飛行モードに入る。

機体は金属の5倍の強度、3倍の硬度を持つ炭素繊維から出来ており、しかも圧倒的に軽い。また、36個のエンジンが付いているため、仮にそのうちの1つが故障しても他の35個のエンジンで飛行の安全性を損ねることは無いとの事だ。更に隣のエンジンへの連鎖故障を防ぐために個別のエンジンが頑丈に保護してある。安全性の高いバッテリーと高度なコンピュータによる制御システムは当然のこと、最悪の事態の場合はパラシュートで飛行できる装置がついている。

このLilim Jetのような飛行機がどうやって実用化され、どのように我々の生活の一部になっていくのか、或いはその普及で人々の生活やマインドがどのように変革されるかという事は非常に興味深い。

そして、このLilium Jetを開発しているLilium Aviation社のCEOであるダニエル・ヴィーガンドこそ、このLilium Jetを空飛ぶタクシーとして利用して貰うことで人々の生活をポジティブに変えたいと思っている人間だ。Lilium Aviation社は現在5人乗りのバージョンを開発中で、将来的にはアプリを使ってタクシーとして呼び寄せ、完全な自動による飛行を実現する予定でいる。

まず、タクシーとして利用した場合のコストであるが、ヴィーガンドに言わせれば同じ距離を走った場合、現在のタクシーの価格より高くなることは無いのだそうだ。何故ならLilium Jetはタクシー車両を買うよりも10倍高いが、20倍長持ちする。よって、キロメートルあたりの価格は現在の車によるタクシーと殆ど変わらないとの事だ。完全な自動化が実現すればパイロットの人件費もなくなるのだろうが、これは少なくとも人による操縦と同等かそれ以上の安全性が確認されてからになるので、時間はかかるだろう。



しかし、そこまで行かなくとも空飛ぶタクシーが実現すれば、少なくともドイツで現在我々庶民が抱えている問題の多くは解決できる。例えばディーゼルによる環境汚染、酷くなる一方の渋滞、高騰する都市部の家賃などだ。経済的な面だけでなく、多くの人の日常におけるストレスも軽減される。都市部は道路よりも歩行者に優しい街づくりが推進され、緑も増えるだろう。

その一方で、ドイツで隆盛を誇ってきた自動車産業は衰退する。既にディーゼル問題や電気自動車への取り組みの遅れでドイツの自動車業界の先行きは長期的にどのみち明るいとは思えないが、空飛ぶタクシーが登場すれば、車が単独で今日ほどの圧倒的なステータスを保ち続けることはないだろう。

更にヴィーガンドは既に中国の超巨大企業テンセントから9000万ドルの資金を調達することに成功している。これはドイツのスタートアップとしては破格の金額で、その期待の高さがわかる。一般にこのような話を非現実的だと馬鹿にする人間は何処にでもいるし、また出資者が中国の企業というだけで怪訝な目で見る人間は多いが、テンセントはヴィーガンドがLilium Jetによって世界を変えたいというビジョンに非常に興味をもったそうだ。

しかし、実際にこの空飛ぶタクシーの実用化に向けては幾つかの課題が残っている。例えば、そもそも飛行機がドイツの都市部の空を飛んでよいのか、タクシーとして利用するならばその運用システムなどを管理するパートナーも必要だろう。こういった課題を解決するのは相手が人間だけに、むしろ技術的なことよりも難しいのかもしれない。空飛ぶタクシーが実現するのは規制が厳しいドイツではなく、アメリカかアジアであろうという声もある。

Lilium Jetの実用化がいつになるのかはっきりした事はまだ分からないが、ヴィーガンドによると10年以内には空飛ぶタクシーとして呼び寄せることが出来るようになり、20年後には全体の30%がLilium Jetのような飛行機で移動するようになる筈だとの事だ。

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