国会議事堂に旧ドイツ帝国の旗は、ドイツ民主主義への冒涜になる

先の土曜日、ベルリンにて政府の新型コロナ対策に反対する総勢38000人によるデモが催された。まあ、それも結構な事だろう。得体の知れないウィルスの為に、国内の経済もどん底に落ち込み、普段の生活で急にマスクやらソーシャル・ディスタンスを強制されてストレスも溜まるのは否定しない。

また、デモと言えば非常にイメージが悪いが、それが平和的である限り、全く不思議な事でもなければ、非難する事でもない。世の中には残念ながら、徒党を組んで大声を出して要求しない限り変わらない事もある。今日我々が持っている権利や豊かさの多くは、事実そのようにして勝ち取って来たものだ。何事も黙って従い、我慢する事が正しいと言う訳ではない。

しかし、今回のベルリンでのデモは社会に極めて物議を醸す事態となった。というのも、このデモに参加した中のおよそ300から400人が暴徒化し、国会議事堂の前を占拠し、その一部は建物内に短時間ながら侵入したとされる。警備していた警察はたったの3人で、暴徒の中には明らかなネオナチの連中が存在していたからだ。

暫くすると警察にも援軍が到着し鎮圧させた模様だが、更にここで極めて問題視されたのが、国会議事堂の前で旧ドイツ帝国の旗を振りかざした連中が存在した事である。これについては、多くの大物政治家が次々と怒りのコメントを発し、更にはドイツ大統領であるシュタインマイヤーまでもが介入する大騒動となった。シュタインマイヤーは以下のようにコメントしている(抜粋)

Reichsflaggen, sogar Reichskriegsflaggen darunter, auf den Stufen des frei gewählten deutschen Parlaments, das Herz unserer Demokratie – das ist nicht nur verabscheuungswürdig, sondern angesichts der Geschichte dieses Ortes geradezu unerträglich”

「自由選挙によって選ばれた議会の段上、我々の民主主義の心臓部に、旧帝国、それも旧帝国軍の旗が棚引く事は、嫌悪すべきある事だけでなく、この地の歴史を鑑みればまさに耐え難いものだ」

大統領であるシュタインマイヤーが自らコメントする場合は極めて異例であり、非常に由々しき事態であった事が窺える。何故これ程までにドイツがこの事件に神経質になっているかは、やはりシュタインマイヤーが言及した通り過去の歴史によるところが大きい。

まず、このベルリンにある国会議事堂であるが、非常に歴史的にも意味のある荘厳な建築物であり、19世期の帝政時代に建築された。1918年には世界で最も進んだ民主的憲法を持ったヴァイマル共和国がこの国会議事堂のバルコニーから宣言されている。現在のドイツはこのヴァイマル共和国の国旗である黒、赤、金の国旗を引き継いでおり、まさにこの国会議事堂はドイツにおける民主主義のシンボルとしての意味合いがある。

1945年に第二次世界大戦でベルリンが陥落した際に、ソ連の兵士がこの国会議事堂に国旗を掲げた写真はあまりにも有名だろう。また、1933年には何者かがこの国会議事堂を放火する事件が発生し、この事件をきっかけにナチスが事実上の独裁が開始したという歴史がある。

次にこの旧ドイツ帝国の旗であるが、黒、白、赤であり、これはプロイセン(黒と白)ハンザ同盟(赤と白)が合体したものであり、1871年のドイツ統一の際に国旗となった。但し、この後に誕生したヴァイマル共和国は帝政からの決別の意味も込めて、この国旗を上記に挙げた黒、赤、金に変更した。

そういう訳で当時から反民主主義的な右翼勢力はこの旧帝国旗をシンボルとして使用しておいた。ナチス関連のものが一切合切禁止されている現在では、再びこの旧ドイツ帝国の国旗が代わりとしてネオナチに利用されるようになっている。とりわけ、これに鉄十字と鷲のマークの付いた帝国軍の旗は完全な極右思想を表すとされる。

つまり、国家にとって神聖な場所でもある国会議事堂に旧ドイツ帝国の旗が掲げられるのは、ドイツ民主主義への冒涜であると同時に、過去の歴史を鑑みても国家にとって耐え難い屈辱でもあると言う事だろう。

尚、国会議事堂はベルリンの観光地でもあり、前の広場に関しては私の知る限り自由に立ち入って良い筈である。しかし、禁止されたナチス関連のシンボルは言うまでもなく、旧帝国関連のシンボルも事実上のタブーである事が今回の事件ではっきりした。

また現在のところ、大多数はドイツの新型コロナ政策に納得している模様で、ポピュリスト政党AfDの支持率も8%にまで落ち込んでいるのも事実だが、極右的、排他的な思想をもった連中はコロナ禍を利用して再びプロパガンダに勤しんでいる節がある。確かに、新型コロナウィルスに関しては連中が大好きな陰謀論が満載で、社会の不満も外国人に転嫁されがちになる。変なポピュリストの連中がまた幅を利かせない為にも、厳しく取り締まって頂きたい。