ヴェルダー・ブレーメン、辛くもブンデスリーガ1部に残留する

はっきり言えば、ブンデスリーガの優勝争いはもはや全くスリルがない。今シーズンの優勝もFCバイエルン、これで8連覇である。これ程わかり切った出来レースが何処にあろうか。昨シーズン、今シーズンはドルトムントが遂にバイエルンと対等になったと思いきや、それも長いシーズンの一時的な現象に過ぎなかった。

しかし、サッカーの質はさておき、あくまでスリルだけを味わいたいのなら、ブンデスリーガ1部と2部の入れ替え戦は観戦する価値がある。言うまでもなく、2部のチームにとって1部昇格は正に天国、1部チームにとって2部降格は地獄だ。1位と2位の争いは一種お祭りの雰囲気があるが、1部と2部をかけた争いは、それとは比較にならない天地を分ける鬼気迫る雰囲気がある。

そして、今年の入れ替え戦はブンデスリーガの名門SVヴェルダー・ブレーメンと、初の1部昇格を目指すFCハイデンハイムの対戦である。

ブレーメンは2000年代初めにドイツで最もモダンな攻撃サッカーを実践したチームであり、当時は上位の常連であった。1981年以来40年間ブンデスリーガ2部へ降格していない名門であるが、今季はブンデスリーガ1部で16位と低迷した。2部降格はまさに悪夢の事態となる。一方のハイデンハイムは最終節で名門ハンブルガーSVを振りきって3位の座を確保し、悲願の1部昇格への挑戦権を手に入れた。

この両者はまずは7月2日にブレーメンのホームで対戦し0-0の引き分けており、一昨日の月曜日に雌雄を決する2ndレグがハイデンハイムのホームで行われた。

試合はハイデンハイムのホームながら、ブレーメンが序盤から一気に攻勢をかけた。そして3分にいきなり相手のオウンゴールを誘発して願ってもない先制点を得る。ブレーメンにとっては極めて貴重なアウェーゴールであり、これで引き分けでも1部残留が決まる。少なくとも2点が必要となったハイデンハイムだが、全く攻撃の糸口すら掴めず、時間だけがただただ過ぎて行く展開となった。

後半になるとハイデンハイムがやや持ち直すが、技術、アイデアが乏しく依然としてブレーメンの守備を崩せそうな雰囲気は出てこない。しかし80分を過ぎると逃げ切りを図るブレーメンの守備ラインが下がり気味になり、ハイデンハイムが攻勢をかけるようになる。そして85分、ミドルシュートがバーに当たり跳ね返ったボールを押し込んで遂にハイデンハイムが同点に追いつく。試合は極度の緊張感を帯びてきた。

しかしブレーメンはここから1部チームの意地を見せ、その5分後の90分にカウンターから勝ち越しゴールを決めて1部残留を確実なものにした。ハイデンハイムは98分にPKで同点に追いついたが、アウェイゴールルールによりブレーメンの1部残留が決定した。

1stレグに関しては観戦していないので何とも言えないが、この2ndレグを見る限りブレーメンの方が個々の技術、アイデアで凌駕していた印象であり、1部残留は順当な結果だと言えるだろう。ハイデンハイムには失礼かもしれないが、そのサッカーは明らかに肉弾戦仕様で、決してブンデスリーガ1部で見たいサッカーではなかった。その意味で少々安堵したと言っておく。

尚、この試合も新型コロナの影響で無観客で行われた為、止むを得ずも入れ替え戦の鬼気迫る雰囲気は乏しかったのは残念であった。もっとも、後半にスタンドに一部のハイデンハイムのファンが乱入して観戦を目論んでいる。スタンド内ではキッチリとソーシャルディスタンスを保っていた様子だったが、案の定途中から摘み出されている。このような観客の暴挙も入れ替え戦ならではである。

そして予想通り試合後は一部のファンが暴徒化して大騒ぎになった。入れ替え戦の後の暴動はお約束であり、このような暴力沙汰にまでなるとさすがにその意義が問われる事になるのだが、あくまでスポーツの勝負としてこれ程までにスリルがあり、極度の緊張感を帯びるイベントはない。

試合後のインタビューで「もう何も見たくない、何も聞きたくない」「とにかく安堵している」などと述べたブレーメン監督コーフェルトのコメントがこの入れ替え戦の尋常でないプレッシャーを物語っているだろう。ともかく、これで2019/2020シーズンのブンデスリーガ1部は幕を閉じた。残るは8月に継続される予定のチャンピオンズリーグのみである。