2018年もとうとう終わりに近づいてきたので、例によって個人的にこの年印象に残った出来事を挙げたおきたい。まずはロシアW杯でのドイツ史上初のグループリーグ敗退と、それに続くメスト・エジルのドイツ代表引退を挙げておく。これはもはやスポーツという枠を超えた社会的、政治的な問題にまで発展する事態となった。
スポーツ面から言えば、おそらくドイツ代表がグループリーグで敗退すると予想した人間はかなりのマイノリティになる筈だ。私の予想でもドイツはブラジル、フランスを上回る優勝候補の筆頭だった。2000年代に入ってからのドイツのW杯の成績は、準優勝、3位、3位、優勝である。出場すれば間違いなくベスト4まで進出してきた訳だ。
更に予選は圧倒的な強さで連勝街道を進み、2017年のコンフェデ杯に至ってはBチームで優勝した。過去の実績、選手の質と層の厚さに経験、完成された組織力に加え、今回は主力に怪我人もいない。普通に考えればグループリーグで敗退する要素は殆どゼロだ。私はドイツが優勝するかどうかはもちろん運にも左右されると考えていたが、悪くてもベスト4までは勝ち進むであろうと予測していた。
ところが、蓋を開けてみれば初戦のメキシコ戦は私が見た中でもワーストの酷い試合だったと言える。それまでのワーストはEURO2000のポルトガル戦だったが、このメキシコ戦の酷さはおそらくそれを上回る。そして、ドイツはグループリーグ最終戦では韓国という完全なアウトサイダーに敗れるという、これまでのドイツサッカー史でも最大の番狂わせを許した。それまでの最大の番狂わせは私の中では1994年アメリカ大会準々決勝のブルガリア戦だったが、この韓国戦はこれも上回る期待外れだったと言わざるを得ない。
詰まるところ、ドイツ代表はロシアW杯に臨むにあたり、選手個々のメンタル、技術、チームとしての纏まりを欠き、そしてヨアヒム・レーヴが構築してきた戦術をはじめとしたマネジメントのすべてが誤っていたと言える。とりわけ、その相手を見下した傲慢なプレーぶりや、もはやドグマとも化したポゼッションサッカーへの拘りは痛烈な批判に晒された。これに関しては選手や監督のヨアヒム・レーヴも大会後自らが傲慢だったと認めざるを得ない程であり、このような惨状を見せたドイツ代表は過去に無かったと言える。
そしてもう一つ言及しておきたいのが、今回のロシアW杯ほど白けた雰囲気のW杯は過去に無かったことだ。2006年以降W杯やEUROになれば家や自家用車にドイツの国旗を飾り、パブリックビューイングに人が集まり代表チームを応援するスタイルが定着したが、今回は全くそのような光景も雰囲気も感じられなかった。
もともと代表チームのファン離れが進んでいた事は事実だが、この国民的イベントの盛り上がりに著しく水を差したのが代表の主力であるメスト・エジルとイルカイ・ギュンドアンがトルコ大統領エルドアンと会合し親密な写真を公開された事件であろう。
このうちギュンドアンは批判を浴びながらも、大会前に自らの口でこの件を説明する事でこれを鎮火させたが、一方無言を貫いたエジルに関してはドイツの敗退後、国民や政治家を巻き込んだ異例の騒動に発展した。そして知っての通り、エジルは人種差別を理由にドイツ代表を引退するという最悪の結末を迎える事になった。
私は正直なところ、これ程までにこの事件が大きな問題に発展するとは予想していなかった。しかし、今となって考えればチームとしてのまとまりを欠きバラバラになって敗退したドイツ代表、盛り上がりを欠いた国内の雰囲気、そしてエジルの代表引退で終結した一連の出来事は、現在の分断されたドイツ社会を象徴しているとも言える。