今年も年の瀬に近づき、例によって1年を振り返りたい。2020年のドイツは言うまでもなく新型コロナ一色である。そしてこのコロナ禍は政治、経済、医療はもちろんの事、文化、倫理観、哲学などの多大なテーマを包括する戦後最大の大災害である事に、議論の余地はないであろう。こんな事態が発生するなど誰が想像したであろうか、本当に参った。
そう言う訳で、コロナ以外に何があると言いたくなる年だったが、それでも、それ以外に何があったか振り返りたい。独断と偏見で印象に残った出来事を挙げておく。
CDU党首クランプカレンバウアーの辞任表明:
まずは2月にCDUの党首、クランプカレンバウアーがその党首辞任を表明した事を挙げておきたい。ドイツ与党最大勢力でもあるCDUの党首はすなわち、今任期限りで退任するメルケルの跡を継ぐドイツ次期首相の最有力候補でもあった。それがここに来て再び白紙になった事で、ドイツの将来は再び不確定要素が強くなった。
この辞任の決定打になったのは、昨年のテューリンゲン州の議会選挙に遡る。本来ならこの選挙結果を受けて順当ならば極左政党Linkeの議員が首相になる筈だったが、CDUはポピュリスト政党AfDとグルになり、支持率5%のFDP議員を首相に祀り上げた。この件でCDUの民主主義政党としての威信は著しく傷つき、党内が一枚岩になっていない事を窺わせた。
このクランプカレンバウアーのを後を受けるCDUの党首にはメルツ、ラシェット、レットゲンの3名の有力政治家が立候補している。新たな党首を決定する党大会は当初4月に行われる予定だったが、これも知っての通りコロナ禍で延期され、結局来年1月15日まで持ち越された。これはドイツの将来に大きな影響を及ぼす政治イベント故に、非常に注目される事は間違いない。
ナヴァルニー毒殺未遂事件:
次に挙げたいのは、ロシアの反体制政治家、アレクセイ・ナヴァルニーの毒殺未遂事件である。ナヴァルニーはロシア国内を飛行機で移動中に瀕死の状態となり、最終的にベルリンに搬送され、ここで奇跡的に一命を取り留めた。そしてこの事件はドイツで調査された結果、首相のメルケルが自らナヴァルニーが口封じの為に毒殺未遂に遭ったと断定し、ロシア政府に説明を求めた。
当然ロシア政府はこの毒殺未遂への関わりを認める訳がなく、ドイツとロシアの関係は一気に冷え込んだ。とりわけ、完成間近であったロシアからドイツへのガス供給パイプラインである「ノルトストリーム2」事業の停止が持ち上がっている。ロシアから天然ガスが直接ドイツに届くか否かは、我々一般庶民の生活にも関わってくる重大案件だけに、今後の行く末が注目される。
ところで、この毒殺未遂に遭ったナヴァルニーであるが現在では回復、事件に関わったとされるエージェントに偽名を利用して電話をし、毒殺事件の詳細を自ら聞き出して話題になった。これに対しロシアはナヴァルニーの腹心を逮捕しており、国を跨いだ大規模な政争に発展しつつある。本当に身の毛もよだつ話だが、今後の展開如何では世界情勢に更に大きな影響を及ぼす事は間違いないだろう。
FCバイエルンのCL優勝とドイツ代表の危機:
最後に挙げておきたいのは、サッカーFCバイエルンがチャンピオンズリーグ制覇の一方で、ドイツ代表が再び危機的な状況に陥った事をを挙げておきたい。FCバイエルンは昨年終わりに監督に就任したハンジ・フリックの下連勝街道をひた走り、8月のチャンピオンズリーグでも早期のリーグ再開から来るコンディションの良さを活かして圧倒的な強さを見せた。
一方でドイツ代表はそのFCバイエルンの選手を揃えながら11月のネーションズリーグ最終戦、スペイン戦で0-6と言う前代未聞の惨敗を喫した。その結果以上に試合内容は更に酷く、当然の事ながら監督であるヨアヒム・レーヴの進退問題に発展した。そして、新監督として現U21の監督シュテファン・クンツ、ドイツ屈指の監督、マネージャーとして評価の高いラルフ・ラングニックの名前が取り沙汰された。
しかし、すったもんだの末にDFBはレーヴの続投を表明、私を含めた世間を落胆させている。代表監督としてレーヴの報酬は世界一と言われており、任期途中の解任は極めて高くつく事は間違いない。そのような事情もあったかもしれないが、いずれにしても来年のEUROは期待薄だろう。フランス、ポルトガルの同居する死の組で、2018W杯に続くグループリーグ敗退も覚悟せねばなるまい。