ここ数年世界的に右派ポピュリスト系の政党が躍進する中で、昨年ドイツでは環境政党である「緑の党」が躍進したことは記憶に新しい。この緑の党は現在でもドイツ全土で20%程度の支持率を維持しており、CDU/CSU連合に続くドイツの第2の勢力にまでなっている。そうこうするうちに右派ポピュリストAfDの支持率は10%程度にまで落ちた。
この緑の党が躍進している要因としては、昨年の熱波や干ばつで地球温暖化やディーゼル問題といった環境関連のテーマがフォーカスされているのもある。また、中道左派のSPDがその存在感を失い支持率を壊滅的に落としたことも大きい。しかし、この成功は昨年より党首の座に就いたロベルト・ハベックの存在を抜きにしては語れないだろう。
そしてこのハベックこそ、昨年よりドイツで国民から非常に高い人気を獲得した政治家の一人であり、3月末でのZDFの調査によるとハベックはメルケルを抜いてドイツで最も人気の政治家という結果を出した。
更にハベックは昨今、メルケルに続く次期首相候補にまで取り沙汰されている。別のアンケートでは国民の20%が次期首相候補に相応しいとの回答を出した。
これはCDUの党首であるアンネグレート・クランプカレンバウアー(28%)、現在財務相であるSPDのオラフ・ショルツ(24%)には及ばないが、そもそも現時点で緑の党は野党であり、戦後ドイツでCDUとSPD以外の政治家が首相になったことは無い。その状況で国民の5人に1人がハベックを次期首相に支持するのは注目に値する。ドイツ政界の新たなスターと言って良いだろう。
北ドイツの代表的都市であるリューベック出身のハベックは現在49歳、その外見は落ち着いた典型的北ドイツ人そのものである。テレビのトークショーに頻繁にゲストとして出演して、国民に顔も広く知れ渡った。非常に冷静で、知的ながら親しみのある印象を与え、まずこの点で好感度が非常に高い事は間違いない。
また、このハベックが他の政治家と一線を画している点をあげるとすれば、大学で哲学、文学、文献学を専攻し、本格的に政治家として活動する以前は作家として活動していた事だ。妻のアンドレア・パルフも作家であり、共同で小説など執筆している。
この異色のキャリアがハベックの政治家としての成功にどの程度寄与したかを答えるのは難しいが、いずれにしてもハベックが緑の党のイメージを劇的に変える事に成功したのは事実だ。
とりわけ、かつて緑の党は環境保護の為ならあらゆる活動を禁止、或いは強制するイメージがあり、それ故に”Verbotspartei”=「禁止政党」と揶揄されていた。例えば2013年には”Veggie day”と銘打った、週に一度公共食堂で肉食を禁止する政策を打ち出した。大多数は当然これに大反対し、緑の党は連邦議会選挙で惨敗した。
確かに環境保護は誰にとっても重要な事だが、それで単に国民に我慢や禁止を強いるのは単なる自己満足だ。有権者は子供ではあるまいし、政党に一方的に躾や教育されるような政策が幅広い層から支持されるのは難しい。要するに緑の党は結果として、ラジカルな主張でコアな支持者からは諸手を挙げて支持される一方、自分たちと合わない層とは距離を置かれるという側面が強かった印象がある。
しかし、ハベックは緑の党をこれまでのように国民に一方的に環境保護を訴える、或いはその為に教育するだけの主張からは完全に脱却させた。何も緑の党に投票する為に、ベジタリアンである必要はない。個人それぞれが根本的にどんな考え方、生活スタイルを持っていようが、それは自由だとハベックはZeit onlineのインタビューで答えている。あくまで重要なのは緑の党が掲げる政治プロジェクトに賛同する事である。
ハベックが多くの支持を集めているのは、その政治プロジェクトに説得力があるだけでなく、やはりそれを大衆に訴える言葉、表現に優れているのだろう。テレビのトークショーなどに頻繁に出演しているのも、少しでも多くの人に緑の党を身近に感じさせる為の戦略でもある筈だ。ポスト・メルケルに向けて今後非常に注目すべき政治家である事は間違いない。