医療崩壊の危機に瀕している旧東ドイツ、ザクセン州

ドイツは昨日からシャットダウン措置に入ったが、この日1日で何と952人の死者が確認された。この数はこれまでよりも突出して多く、もはや完全に制御不能の状態になりつつある。その中でも既に医療崩壊しているのではないかと思われる程、危機的な状況に瀕しているのが旧東ドイツ、ザクセン州である。

現時点でザクセン州の10万人あたりの新規感染者数は平均で400を超えており、ドイツ全体の平均の倍以上である。特にバウツェン、ゲルリッツあたりのチェコとの国境沿いは600を超えており、もはや完全に感染爆発している事が窺える。

更にゲルリッツ近郊のツィッタウと呼ばれる自治体の医師は、とあるオンラインフォーラムで既に事実上のトリアージを実施する必要があったと述べた。病院側は公式にこれを否定しているが、事態がもはや制御不能になっている事は疑いのない事実であり、インタビューに応じるザクセン州首相のクレッチマーは見るからに憔悴し切っている。

これまで、ドイツのコロナ、ホットスポットは南部のバイエルン州、バーデン・ヴュルテンベルク州、或いは西部のノルトライン・ヴェストファーレン州が中心であり、旧東ドイツの州はそれ程酷くないとされてきた。日本ではこれはBCG接種の有無による可能性があるなどと実しやかに噂されていたが、少なくともドイツに関してはこれは全く当てはまらない。

そして現状このザクセン州の最大の問題とされているのが、人々の動きが思った程減っていない事である。実はザクセン州はメルケルが今週ドイツ全土に発表したよりも早く、シャットダウンの措置を州独自で既に実施していた。にも関わらずロベルト・コッホ研究所によるとザクセン州の人出はドイツ全土で未だに最も多い。要するに州民がルールを守っていないのだ。

感染が爆発しているバウツェンではこの状況でもコロナ政策に反対する州民が集会を繰り返しているらしく、例によってこれらは外見からネオナチで間違いない模様である。或いはもともとコロナはインフルエンザ一種だと宣い、シャットダウン措置に反対しているAfDの勢力だろう。一部の店舗ではスーパーマンと共に「マスク無しもウェルカム」などと記された妙な張り紙も見受けられる。これらの右翼勢力がザクセンで強いのはよく知られた事実である。

まあ、ザクセンのこの状況が全て彼らの所為だと言うのは余りにも乱暴で、間違いなくその他の理由もある。最も考えられるのは、やはり同様に感染が爆発したチェコと国境を接していると言う点だろう。チェコのピークはドイツよりも早く来ており、12月初めにちょうどドイツが引き締めを図った時点で、ロックダウンを解除した。

仮に国境が閉じられたと言っても、仕事での往来や物品の流通などもある上に、取り締まりも十分でない可能性がある。春先もやはりイタリア、フランスとの国境沿いの地域に多くの感染者が確認されている。

他にも高齢者が多いなどの理由があるだろうが、いずれにしても、ザクセンはもともと人口密度の高い都市部ほど警戒されていなかった。それがあっという間に状況が変わり、医療崩壊の危機に瀕していることは、他山の石とされて然るべきだろう。

しかし、どこかの政治家はこの新型コロナを「戦争」と言った記憶があるが、外を見れば家が燃え盛るわけでも、銃弾が飛んでくる訳でもない。外を見れば穏やかで、危険が差し迫っている感覚など、まるで無い。感染者の殆どは無症状で、自覚もない。11月の時点で現在のようなシャットダウンをしていれば、これ程酷くはならなかったかもしれないが、その時点なら国民は大反対しただろう。この人間心理、そして民主主義の弱点を容赦なく付いてくる点が、新型コロナの恐ろしさかもしれない。