ロシアの侵攻を受けて、各国が連帯して続々と経済制裁措置を発表している。当然だろう。独裁者の歪んだ歴史認識と領土的野心のために多くの人が命を落とすなど許される事ではない。プーチンはウクライナ政権を麻薬中毒者のネオナチと罵っており、既に完全な狂気の沙汰に突入している感を窺わせる。
これまでドイツが発表した経済制裁の中で核になるものは、ロシアから引っ張ってきたガスパイプライン「ノルトストリーム2」の凍結である。脱原発を目前に控えたドイツは繋ぎのエネルギー源としてガスを非常に重視しており、このパイプラインは自然エネルギーが主力になるまでの期間、ドイツ経済、国民生活にとって非常に需要な役割を果たす筈だった。
我々庶民にとってはガスはとりわけ冬場の暖房の動力源として重要で、ドイツにおける住居全体のおよそ5割がこれに当たり、私のアパートも暖房はガスが動力源になっている。
知っての通り昨今はエネルギー価格の暴騰でガスの価格は年始の時点で前年比80パーセント以上も上昇しており、これに加えて戦争が勃発した事で更なる価格上昇は間違いない。私も今年の暖房代の追加払いに戦々恐々しており、どの程度になるか知らないが、追加払い1000ユーロは下らないだろう。
もっとも、「ノルトストリーム2」自体は完成はしているが、まだ未稼働だったので、これまであったものが無くなる訳ではなく、計算されていた今後の巨大なプラスアルファが無くなると言う認識だ。なので今回の停止でガス価格は更に上がるが、ガスの供給自体が逼迫する訳ではないと経済環境相のハベックは述べている。基本的にドイツはこのような時に変な気休めは言わず、むしろ最悪を想定してものを言うので私はこれは信用している。
現段階では「ノルトストリーム2」は一時的に凍結している状態だが、もはやこのパイプラインは完全に死んだとの認識が大勢であり、私もそう思う。残念ながら、これは数々の国家プロジェクトの中でも、ブラックジョークにすらならない、最大級の失敗だろう。
特にプーチンと仲良しこよしで現在ロシア国営企業の幹部になっている元首相シュレーダーは、遂に悪党の手下だった事が認定されたと言っても過言ではない。シュレーダーはかつてイラク戦争に参加しないと言う英断を下したが、このプーチンとの関係は完全に見誤った。
そして、この「ノルトストリーム2」の停止に加え、現在話題に上っているのが、国際送金システム”Swift”からのロシア締め出しである。これはこれまで発表した経済制裁の中でも特に強力で、ロシアに対する”schärfstes Schwert”「最も鋭い刃」と言われている。
しかし、これに今となってEUで唯一反対しているのがドイツだ。と言うのも、この経済制裁を実施すれば、実際にエネルギー供給が逼迫すると言われている。何故ならドイツがロシアからのガスや石炭の請求書を事実上支払う事が出来なくなるからだ。つまり、この結果ロシアは完全にガスや石炭の供給を止めざるを得ない。
ドイツは「ノルトストリーム2」の稼働なしで天然ガスの輸入およそ55%、石炭の輸入50%をロシアに依存している。エネルギー源の輸入の多くをロシアのような国家に依存するシステムを構築する危険性については、アメリカをはじめ、国内でも多くの人が指摘してきた。しかし、このツケをドイツはまさに支払わなければならない時が来たように見える。
つまり、私から言わせれば、ドイツは早急にロシアの”Swift”からの締め出しをEUと共に実行しなければならない。あのプーチンのマブダチでもあるハンガリーのオルバンさえも当初は反対していたが、今となってはEUの意向に従うと言っているのだ。何故ドイツが反対する。
この最強の経済制裁がEUで最も経済的に豊かと言われるドイツの反対で頓挫する事など、あってはならない。ウクライナでは18歳から60歳の男性は戦わなければならない。罪のない市民が武器を手に持ち、死んでいるのだ。それに比べれば、ドイツの問題などたかが知れている。資源は幾ら高かろうが、何処かから引っ張ってこれるだろう。高すぎれば、税金を投入するなどの解決を見つけ無ければならない。それが政治家の仕事だろう。