今年ドイツ最大の政治イベントである連邦議会総選挙まで1ヶ月を切った。言うまでもなく、ここでの選挙結果は国の将来を左右し、とりわけ現首相であるアンゲラ・メルケルの後を継ぐドイツ次期首相が誰になるかと言う点でもドイツの将来にとって非常に重要な選挙となる。
このメルケルの後釜に関しては多くの政治家が取り沙汰され、状況は何度も変遷した。まずは現国防相であるミニ・メルケルことアンネグレート・クランプカレンバウアーと元ブラックロック監査役フリードリヒ・メルツが有力候補であった。しかし、クランプカレンバウアーはCDU党首を辞任し、新たに有力となったのがノルトライン・ヴェストファーレン州首相であるアルミン・ラシェットである。
ラシェットはCDU党内での争いで、メルツ及びコロナ禍で絶大な人気を得たCSUマルクス・ゼーダーを蹴落とし、遂に事実上のドイツ次期首相の椅子を得たかに見えた。ライバルの緑の党が擁立した首相候補、アンナレーナ・ベアボックはどう見ても経験不足で、首相となるにはどう考えても時期向早である。
しかし、ここに来て新たにドイツ次期首相の座へ最も近くなりつつあるのが、SPDが擁立した首相候補オラフ・ショルツである。ショルツはドイツの現副首相であり、財務相でもある。本来なら次期首相に取り沙汰されていてもおかしくない実力者なのだが、所属するSPDの支持率が数年前から記録的な低空飛行を続けており、これまでは完全な蚊帳の外であった。
ところがそのSPDの支持率が突如上がり始め、最新の調査では22%で完全にCDUと緑の党と並び、三つ巴の争いにまでなった。更にショルツは次期首相に相応しい人物は誰かというアンケートでラシェットとベアボックを抑えてダントツの首位に立っている。もしも、総選挙でSPDが勝利し政権入りするならば、連立の組み合わせにもよるが、ショルツが首相になる可能性は十分にある。
何故、SPDがここに来て突如支持率を回復し、ショルツが次期首相有力候補まで持ち上げられて来たかであるが、これはまずCDUラシェットの失策が大きい。
何かと言えば、7月におよそ180人が死亡した西部ドイツの大洪水の際、現場に訪れたラシェットは大統領シュタインマイヤーの神妙なスピーチの際、背後で笑顔を見せている姿をカメラにまんまと映し出されてしまった。ここでのラシェットは完全な無警戒でもはや爆笑という類の表情をすっぱ抜かれており、ここでラシェットの支持率が爆下がりしたのは言うまでもない。
更にもう一人の首相候補でもある緑の党ベアボックも履歴書の詐称や既に出版した本での盗作疑惑などでパッとせず、現在では首相候補としては蚊帳の外になりつつある。
要するにショルツ自体は取り立てて何も特別なことをしている訳ではないが、これらのライバル達が勝手にずっこけてくれたお陰で首相のお鉢が回って来そうな雰囲気が出てきたと言うことだ。敢えて言うならば、ショルツは財務相、副首相として既にコロナの支援やメルケルの代理を務めており、その点において安心感はある。それは大きなプラスポイントだろう。
もっとも、ショルツ自身も何もキズが無いわけではなく、特にワイヤーカードの粉飾決算スキャンダルにおいては財務相として大きな責任を問われている。これは昨年の話なので皆が忘れている感があるが、この辺りで新たな疑惑、事実などが今後出てくる可能性も十分にある。
いずれにしても、選挙まで残り一ヶ月、何が起こるか全く分からないが、個人的にはSPDが復活してきたのは好意的に捉えている。やはり、コロナ禍で多くの人が生活に苦しむ中、SPDは社会的格差や公共サービスの是正などに注力する政党でもある。問題は連立政権がどの組み合わせになるかだ。結果次第ではSPD、緑の党、Linkeというドイツが左派三党の連立になる可能性もあるので、それはちょっと勘弁して欲しいとは思っている。