暗礁に乗り上げている、サマータイム制度の廃止

本日は10月最後の日曜日、毎年恒例のサマータイム制度による時刻調整の日である。すなわち、午前3時に再び時計の針が午前2時に戻され、来年3月最後の日曜日まで冬時間が適用される。日本との時差はこれで7時間から8時間になる。

私は何度か既に記事にしているのだが、このサマータイム制度は一刻も早く廃止して頂きたいと思っている。年に2度も軽い時差ボケを強制させられる事を甘く見てはならない。今日に関しては時間が戻る事で1日25時間となり1時間得したと思われるかもしれないが、これも結局調子が狂うのだ。いつもとは異なる時間に空腹感が出たり、疲れを感じたりするのだから当然だろう。

このような健康上の害に加え、時刻変更の際には時刻変更に対応しない野生動物との交通事故のリスクが上がる事が明らかになっている。EUが実施したアンケートによると、参加者の84%が現行のサマータイム制度を廃止を望んでいる事が明らかになった。

そして昨年、めでたい事にEUは2021年を最後に現行のサマータイム制度を廃止する意向を明らかにした。これは非常に私にとって喜ばしいニュースであったのだが、現在になってもメディアからは何の音沙汰もない。そんな事だろうと思っていたが、やはりサマータイム制度の廃止計画は暗礁に乗り上げている事が明らかになっている。

このサマータイム制度廃止において最大のネックとなっているのが、通年夏時間にするのか冬時間にするのか、EU加盟国同士、各国で足並みを揃える必要があると言う事である。そして、これは極めて厄介かつ複雑であり、一致は極めて難しい。

何故なら、ドイツを含めたEU加盟国の多くは中央ヨーロッパ時刻に属しているのだが、これは東西に結構幅広い。西はスペインから東はポーランドまで同じ時刻帯である。これで当然、日の出、日の入り時刻、つまり一日の明るい時間帯が国によって大きく異なる。

このうち、スペインは地理的に言えばそもそも時刻帯自体が間違っている。スペインは本来ならポルトガルやイギリスと同じ時刻帯あるべきなのだ。これは第二次世界大戦中に当時の独裁者フランコが同盟国であるナチス・ドイツに便宜を図った結果、自国を中央ヨーロッパ時刻に無理やり編入したと言われる。

この結果、夏時間の間は太陽の南中時刻は午後の2時過ぎ、更に6、7月は緯度の割にはかなり夜遅くまで明るくなる。この為スペインは暑い昼間は長い休息をとり、夕食が遅かったり、子供が遅くまで遊んでいる事がもはや文化として定着している模様でもある。この事についてスペイン人自身がどう思っているのか知らないが、個人的にはそんなに羨ましいとは思わない。せめて通年冬時間にすれば、より健康的な生活習慣に近づくだろう。

一方、東のポーランドであるが、こちらは是が非でも通年夏時間を採用したいところだ。何故なら、冬時間12月のワルシャワは日の入りが午後の3時過ぎとなり、5時半にはもはや完全な真っ暗闇になるからだ。本日の時刻変更を最も愚痴っているのは、間違いなくポーランドのような東ヨーロッパのEU加盟国だろう。

そして、おそらくEUの決定に最も影響力を及ぼすであろうドイツであるが、通年夏時間にするか、冬時間にするかはまだはっきりと決定していない。以前、経済相のアルトマイヤーが通年夏時間が望ましい旨をコメントしたが、当然遅くまで明るい方が経済的にはメリットが多いと予想される。また夜遅くまで野外活動を楽しみたい人々には、言うまでもなくそちらの方が良い。

しかし、通年夏時間にした場合、冬場の日の出時刻が著しく遅くなる。この為一定時間真っ暗な中で学校で授業をしたり、仕事をする事になる。これで目覚めの悪さから人間の集中力、注意力が低下する事が明らかになっており、仕事や授業でミスをする、或いは交通事故の確率が上がる。

更に夏場に日が長い事で睡眠の質が落ちる。これは全くその通りで、夏時間で夜9時過ぎまで明るいとベッドに横になっても寝つきが悪くなる。体力のある若いうちならまだ問題ないが、歳をとるにつれて悪影響が顕著になってくる。更に子供の夜更かしも助長する事も厄介だ。スペインのように社会が丸ごと夜型になっているならまだしも、ドイツは完全な朝型の社会であり、早寝早起きは良い一日を過ごすために重要であると言っておく。

詰まるところ、冬時間=通常時間と言われるように、ドイツの場合はあくまで健康、生物学上からは通年冬時間の方が望ましい事が明らかになっている。これには私も賛同で、ぜひ通年冬時間にして欲しい。もっとも、ポーランドの事を考えれば仮に通年冬時間になった場合、それは気の毒なのも確かだ。最近はあまりドイツとも仲良しではないが、こんなところからもまた亀裂が生じる可能性もある。

いずれにしても、絶対に避けなければならないのは、各国の時刻帯が夏時間、冬時間でまちまちになる事だ。国境線をまたぐたびに時刻を気にして生活するなど、混乱は間違いないだろう。故にEU各国足並みを揃える事は必要不可欠だが、これは極めて難しく誰も手を付けたくない案件だと言うのもわかる。その上現在は各国コロナ禍でそれどころではない。

先に上げたEUのアンケートも実は参加者460万人はEUの人口の1%に過ぎず、うち300万はドイツからである。つまり、このテーマはドイツ人が躍起になっているテーマで、他国にとってはさほど重要ではない。EUも「廃止する」と宣言した以上何もしない事はないだろうが、なんだかんだでサマータイム制度は今後も存続する事が濃厚に思われる。