健康相イェンス・シュパーン、ドイツ首相への立候補検討を噂される

前回、メルケルの後を継ぐドイツの新たな首相候補にメルツ、ラシェット、ゼーダーらを挙げたが、一応ここに現在ドイツの健康相であるイェンス・シュパーン(CDU)を付け加えた方が良いかもしれない。シュパーンは来週に行われるCDU党首選でラシェットのパートナーと言う形で出馬する。つまり、ラシェットが新たな党首となった場合、シュパーンが副党首となるという按配で決定している。

予定ではこの新たなCDU党首が決定したのち、春先にCDU/CSU連合は公式に首相候補を擁立するのだが、状況によってはシュパーンがここでドイツの首相へ立候補すべくチャンスを窺っていると昨日各メディアが報じて物議を醸している。

普通、公式にドイツの首相候補として擁立されるのは各党の党首であるのだが、ルール上必ずしもそうである必要はない。現に現在ドイツの首相はメルケルだが、最大与党CDUの党首はクランプカレンバウアーである。これは歴史的には極めて例外的な状況とは言え、シュパーンにも理論上はチャンスはあると言う事だ。

シュパーンはメルケルの難民政策の反対をはじめ保守的な政治家に分類されるが、本人がホモセクシャルであり同性の配偶者を持っている。もともと野心家である事は周知の事実で、既に前回のCDU党首選にも立候補した。ここでは完全な大穴であり、メルツ、クランプカレンバウアーに敗れたが、予想外の健闘を見せた。現在40歳にして健康相を務めていることから見ても、まさにドイツ期待の若手政治家でもある。

特に今回のコロナ禍では最も国民からの支持を上げた政治家の一人で、現在はメルケル、ゼーダーに継ぐ第3位の人気を誇る。私も健康相としてシュパーンの仕事はこれまで概ね堅実で、良い評価を与えて良いと思っている。もちろん、12月の感染爆発に加え、最近はワクチンの量が足りず接種が思った程進んでいない事で批判されており、完璧ではない。

ただ、これらの批判は私から言わせれば殆ど結果論だ。誰も経験した事のない未曾有の事態で状況を先読みし、経済活動などの兼ね合いで常に正しい決断を行う事は殆ど不可能である。仮に12月の感染爆発を読んで11月の時点で現在のようなシャットダウンなど実施しようものなら、そもそも国民が大反対しただろう。

また、ワクチンに関しても、最初はバイオンテック/ファイザーのワクチンしか認可されていないので当然量は少なく、ドイツでは接種は遅々として進まなかった。イスラエルなどはこのワクチンに他国よりも高い金を払って大量確保し、一気に接種を進めることに成功してるが、これもある種の賭けだ。ドイツがリスクを避けるためにEUを通し、複数のワクチンを分散して注文した事は理解できる。尚、先週にはモデルナのワクチンが認可され、今月中にはアストラゼネカも認可されるので、これも状況は改善する。

少し話は横道に逸れたが、いずれにしてもシュパーンの国民からの人気は高い。将来の首相候補としては誰もが認めるところだろう。報道によるとシュパーンは3月の段階で自らの支持率がラシェットより高ければ、首相候補へ名乗りを上げる事を検討しているとされる。

しかしながら、これはパートナーのラシェットに対する一種の下克上的なもので、このような思惑が党内、或いは国民にも歓迎される訳はない。当然ながら、シュパーンは報道を否定している。最近は大きな選挙が近づくと、必ずと言って良いほど直前でこのようなスキャンダル的な情報が出てくる。

現実的にはシュパーンがメルケルの後に首相になる可能性はほぼ無いと思うのだが、いつかその座を射止めようと虎視眈々と狙っているのは事実だろう。今回リベラルなラシェットと組んだのも、まずは党内でナンバー2の地位を確保し、段階を踏もうとしたものだ。ただ余り野心を表沙汰にすると、今回のリークのように足を引っ張られたり、変なスキャンダルに巻き込まれる事もある。将来の首相候補として順風満帆とはいかないだろう。