意地を見せたドイツ、スペイン相手に引き分に持ち込む

そもそも、今回のW杯はドイツ国内でも全く盛り上がっていない。カタールの人権問題は相当物議を醸しており、ドイツは大会をボイコットする動きさえあった。更に今回は冬の暗い時期に開催されており、全くいつもの雰囲気がない。そしてトドメが、ドイツが初戦で日本にまさかの逆転負けを喫した事だ。負けたという結果もだが、負け方も悪かった。

事実アンケートによれば、55パーセントもの国民が本日のスペイン戦を「観ない」と答えていた。更に言えば、確かに2008年以降ドイツとスペインはよく対戦している印象があるが、殆どスペインが勝っている記憶しかない。前回などは6-0である。もはや国民の白けムードは頂点に達したと言って良いだろう。

ところが、本日日本がコスタリカに敗れた事はドイツにとっては完全な嬉しい誤算となった。どん底の白けムードから若干ながら盛り上がりがテレビから感じ取れる状況になった。

さて、試合であるが、メンバーを見ればさながらFCバイエルン対バルセロナの様相である。スペインのスタイルはまさにこのFCバルセロナそのもので、圧倒的なボール扱いのスキルとゲーゲンプレッシングで相手チームを窒息させる。序盤はスペインのペースで試合が進み、7分にはオルモのシュートがドイツゴールのバーを叩き肝を冷やした。ドイツが圧倒された2010年W杯の準決勝が思い起こされる展開である。

しかし、スペインの巧さに手を焼きながらも体格で上回るドイツは徐々に試合を均衡に戻しつつある。どちらが中盤を制するか、非常に見応えのある、激しいせめぎ合いが続く。ドイツは80分にリューディガーが右サイドのフリーキックからヘディングでネットを揺らすが僅かにオフサイドだった。前半を0-0で折り返す。

ここまでは互角か、ややスペインが優勢に見える。スペインの高い位置からの守備に、ドイツは後方で苦しいパス回しを強いられている。

後半になるとドイツはメンバーをそのままにこれまで戦い方を若干修正した。中盤でのボールキープに拘らず、スピードのあるFWをスペイン守備陣の裏に走らせ、長いボールを通し始めた。これが功を奏したのか、スペインの守備ブロックがやや後ろに下がり始め、前半とは逆にドイツのゲーゲンプレッシングが機能し始めた。56分にキミッヒはゴール正面から決定機を迎えるが、惜しくもセーブされた。

しかし62分、ドイツ右サイドからの低いクロスをモラタが足先で合わせてスペインが先制する。ブロックに来たズューレは僅かに間に合わなかった。とにかくスペインの選手はボール扱いが巧いだけでなく、出足が早い。更には相手の動きの逆を付くのが異常に巧い。

ドイツは70分にミュラー、ギュンドアン、ケーラーに代えてクロースターマン、サネ、フュルクルークの3人を同時投入する。ドイツはムジアラ、サネのドリブルからスペインの左サイドを攻める。73分にムジアラがゴール前でフリーになる決定機を迎えるが、キーパー正面に蹴ってしまう。ゴール正面にFWフュルクルークがフリーで待ち構えていただけに惜しまれる判断ミスだ。

ドイツはギュンドアンが抜けた事で中盤でのボールキープ力が落ちたものの、クラシックなセンターフォワードであるフュルクルークが入った事で前線にターゲットが出来た。そして83分、ムジアラの突破からペナルティエリア内でボールを受けたフュルクルークは、ゴール正面やや右の位置から右足を一閃し同点に追いついた。

ドイツは更に終了間際にサネがカウンターから決定機を迎えるが、これを活かしきれず試合はそのまま引き分けで終了し、両チームが勝ち点1を分けあう結果となった。

この結果に誰もケチなどつけられまい。引き分けという結果は内容から言ってもフェアなもので、まさに強豪国同士の意地と意地がぶつかり合った素晴らしい試合だった。私は全部の試合を観戦していないので恐縮だが、間違いなく今大会これまでのベストマッチだと言えるのではないか。

特に私はドイツがこれまでのショートパスを基調としたボール支配のドグマを捨て、後半から長いボールを活用して活路を見出した事を高く評価したい。この柔軟性は近年には見られなかった。またフリックの選手交代も今回は機能し、特にFWフュルクルークの起用は決定的だったは明らかだ。今後に向けてドイツは強力なオプションを獲得したと言える。

更にこの日は日本戦で見られたような相手を舐めたプレーは見られず、最後まで諦めず、死に物狂いで戦うドイツが再び見られた事に安堵している。残念ながらこの結果は日本の決勝T進出には不利に働くが、そんな事は忘れさせる程今日の試合は見応えがあった。