ドイツの政治の表舞台に出てくるのは「首相」=”Bundeskanzler”であり、昨年の12月よりSPDの政治家オラフ・ショルツが務めている。しかし、これとは別にドイツにも「大統領」=”Bundespräsident” が存在する。現在この任はSPDの政治家、フランク・ヴァルター・シュタインマイヤーが務めている。
このドイツの大統領であるが、国の政治を司る首相に対し、国家元首として国を代表する、或いは象徴する役目を担っていると言える。また、首相をはじめとした各省の大臣の任免や罷免、他国との条約、法律の施行に当たって最終的にサインしたりするのがその役目である。
我々庶民の前に姿を現すのは、基本的に年に1度のクリスマスの演説、或いは難民危機やこの度のコロナ危機など、国内に大きな混乱が生じた時に限られていおり、あまり馴染みはない。しかし、形式的には首相を上回る地位になる。
さて、その現在大統領のシュタインマイヤーであるが、2009年にSPDの首相候補としてメルケルに挑み敗れたものの、長年にわたりドイツの外務大臣として活躍し副首相も務めるなど、極めて高い地位で十分な経験を積んだ生粋の政治家と言える。
前回2017年の大統領選挙では圧倒的な支持を集め大統領に選出されており、今年の3月で任期満了になる。しかし、シュタインマイヤーは昨年のかなり早い段階で今年2月に行われる再選に立候補して世間を驚かせた。この選挙を前にしてはドイツ初の女性大統領を望む声も大きかったのだが、結局AfD以外の各党がシュタインマイヤー支持を公にした事で、2期連続の大統領の座は確実にした。
シュタインマイヤーは事実すこぶる評判の良い政治家で、この氏が非難されているのは私は殆ど聞いたことがない。各党の党首もこれまでの大統領としての仕事を絶賛しており、もはや非の打ち所がない印象さえ与える。
もちろん、政治の表舞台に立つ機会が少ない故、批判するような材料が無いだけかも知れないが、少なくとも私の印象から言えば、このシュタインマイヤーからは政治家にありがちな腹黒さ、権力欲、支配欲を感じない。如何にも温厚そうな外見とは裏腹に、かなり力強い声で演説を行い、明瞭かつ理性的で思慮深さを感じさせるメッセージを出す。
一方でアメリカ大統領ドナルド・トランプに対してシュタインマイヤーは一貫して批判的な立場を貫き続け、お茶を濁すようなコメントは一切無かった。同様にポピュリストAfDに対しても完全に一線を画している。国家元首と言えば、如何にも儀礼的な発言が多くなるが、批判を恐れないこのような断固とした姿勢が多くの人から支持を得ている要因でもあるだろう。