私はもう何年も前から酷くなる一方のミュンヘン市内の自動車渋滞に悩まされており、何度車の中でブチ切れた分からない。これも景気が良かったからだろうが、そのお陰で我々庶民の日常のストレスが爆発的に増加した好例でもある。
もはやこんな好景気は要らないから、平凡な毎日を取り戻したいと思っていた矢先に到来したのが今回のコロナ禍である。知っての通り、ロックダウンをはじめとした厳しい措置やルールが敷かれ、市内の交通量は一時は劇的に減った。
しかしそれも束の間、私の感覚で言えば、再びミュンヘン市内の道路交通量は元のレベルに戻りつつある。或いは以前より酷くなったかもしれない。確かに経済活動はコロナ前のレベルに戻ってはいないだろうが、新型コロナの感染リスクを避けるため、地下鉄や電車の利用が相対的に減ったからだろう。そんな訳で、またミュンヘン市内で渋滞に巻き込まれる毎日が戻ってきた。
しかし、こんな毎日の渋滞が可愛く思えるほど市内が酷いカオスに陥ったのが先の火曜日である。ドイツ労働組合の一つである”Ver di”は地下鉄とSバーンをストップするストライキを実施したからだ。Ver diはドイツ最大の労働組合の一つであり、主にサービス業に携わる労働者による団体である。要求しているのは4,8%の給料UPだ。
公共交通機関の利用が減ったとは言え、やはりこれはストップした影響は大きく、皆が車を使わざるを得なくなった。この日はたかが数キロを移動するのに1時間以上要すると言うあり得ない混雑ぶりだった。
このストライキに関しては賛否両論があるだろうが、私の知る限り、労働組合の要求としては、この給料UPはおそらく少ない部類に入る。また、コロナ禍の中でもこれまで以上に仕事をしなければならない一部の職種の人々も存在するのも事実だ。そう言った人々には当然ながら敬意を払われて然るべきだろう。以前、医療関係者にコロナ特別ボーナスが国から支払われるという話があった。
それがどうなかったか知らないが、可能であればそのような特別措置は実施されて然るべきだろう。そう言う意味では、同様にストライキを実施した保育、介護職に関してはある程度の正当性はあるかもしれない。
しかし、公共交通機関の職種が現在ストライキをしてまで給料UPに拘るのは、私から言わせれば厚顔無恥の何者でもない。もちろん、金が欲しいのも、仕事が大変なのも否定してはならないが、この種のサービス業はそもそもコロナ禍の中でも国から”Systemrelevante Berufe”「社会サービスを保つ上で重要な職業」としてある程度特別扱いされている。
さらに言えば、現在社会には自らの職が危うくなっている人々が多数存在し、給料UPなどの話どころではない。常識から考えれば、公共交通機関関係はもっとも解雇のリスクも少なく、収入も確保されている職種でもあろう。
いずれにせよ、このストライキのお陰でこの日の市内交通は大混乱に陥り、多くの人々が被害を被った。個人的に酷いと思ったのは、地下鉄と電車がストップしたお陰で多くの人が一部運行していたバスに殺到し、寿司詰めの満員状態となった。仮にマスクをしていても、これでコロナを回避するなど無理な話だ。
まあ百歩譲って、ストライキをしたければコロナが収束してからすればよい。常識から考えれば、そちらの方が給料UPのチャンスがあるのではないか。しかし、そんな事はどこ吹く風で、Verdiは再度のストライキを予告している。嫌味な言い方をすれば、敢えて皆がコロナ禍で苦労している現在、市民の生活やウィルスの蔓延を質にとって、金を毟り取ろうと言う魂胆に見える。ちょっと私には理解し難い思考だが、その執念にだけは本当に恐れ入ると言っておく。