10月9日の水曜日にひとりのドイツ人男性がドイツ東部の都市ハレにあるユダヤ人礼拝所を襲撃した。犯人は当初この礼拝所のドアを破壊して侵入しようと目論んだが、これに失敗し、直後に周囲に発砲し2人が死亡した。この日はユダヤ教で極めて重要なヨム・キプルの祝日だった。ドイツ政府はユダヤ人を狙った単独犯の極右テロとの見解を示している。
この事件は当然のことながらドイツを震撼させ、この日はテレビも多くの特別番組が組まれた。ドイツが最も神経を使う極右思想による、明らかにユダヤ人を狙ったテロであることも大きな理由だろう。
ドイツは知っての通り過去の歴史からユダヤ人の保護は国是となっており、多くのユダヤ教関連施設は不審者が侵入できないように厳重な設備が敷いてある。今回も犯人はドアを破壊しようとしたが、頑丈な装甲仕様の為これを断念した。犯行当時、礼拝所の中には50人以上のユダヤ教徒がいたとされる。
一方で警察による警備はこのハレの礼拝所に関しては全くと言って良いほど行われておらず、犯人に路上での発砲を許す結果となった。基本的にこの警察による警備に関しては各州の権限に委ねられており、施設によって差異が見られる模様だ。しかし、今回のテロを受けて、内務相のホルスト・ゼーホーファーはユダヤ教関連施設の警備を強化する事を明らかにしている。
もう一つ、今回のテロで注目されているのが、この犯人はいわゆるドイツのネオナチグループやアルカイダ、イスラム国のようなテロ組織には属しておらず、単独でネットの世界で反ユダヤ人思想に染まった人物である事だ。故に、ドイツの治安当局にもこれまで完全なノーマークの人物だった。その人物像を見る限り、ネットの世界に没頭する引きこもり的な生活していたと推測される。
そして今日ネットの世界を見渡せば、特定の人種民族を差別し、またそれを煽るような主義主張などが満載である。更には素人でもネットで武器の手に入れ方、爆弾の作り方などの情報も手に入れる事ができる。つまり、テロ組織を弱体化させても、このような人物による事件が起こる社会的な素地は、残念ながら今後も十分にあると言える。
また、反ユダヤを動機とする犯罪の数は少なくとも首都のベルリンにおいては若干減少したとも言われるが、ドイツでこの反ユダヤ人主義は根強く存在するとされる。少し前に、反ユダヤ的な内容の歌詞の曲がドイツで権威のある音楽賞”Echo”でポップ部門の賞を獲得しスキャンダルになった。
内務相のゼーホーファーは治安の強化と共にホロコーストの歴史を伝えていくなど、ユダヤ人がドイツで不安なく過ごせる為の教育を徹底するとしている。